「太一…」
「ン?」
結有の呼びかけに太一は僅かに首を傾げる。
(俺も太一が好きだったって…そう言ったら…)
少しは過去の二人の時間が報われるだろうか、とそんなコトを考えた。
太一が捨てきれない結有への思いが何なのかは分からないが、自分の気持ちを伝えるコトで太一の後悔のようなものが少しでもなくなればと、そんな思いが頭を過る。
気持ちを伝えられなかった後悔は、結有の中にも確かにあったのだから。
「……」
けれど、すぐに思い直した。
あの頃の結有の気持ちを知ったからと言って、太一の中の何が変わるのかは結有にも分からない。
太一のために、などと考えるのは結有の思い上りでしかないのだろう。
何故なら太一の心を癒すのは結有の役目ではなく、今どこかで太一を待っているだろうあの男なのだから。
「太一」
結有はもう一度太一を呼ぶと、小さく微笑んでみせる。
そうして、たった今考えていた総ての思いを短い一言にのせた。
「ありがとう…」
その一言で何が太一に伝わったのか結有には知る由もないけれど、それでも太一は「あぁ」と頷き、笑い返してくれた。
今度は、太一らしい零れるような笑顔で。
「じゃあな…もう行けよ」
「うん…」
太一の笑顔に背を向けて、結有は歩き出した。
祥悟の元へと。
☆
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