それでも太一の言うあの人≠ニいうのが祥悟のコトだと気づいた結有は息を殺して太一の呟きに聞き耳を立てた。
「あの人は何にも知らなかったのに…俺が知ってたお前の過去も傷も本当に何んにも……なのに、なんで俺は切り札持ってて負けたんだろう…」
(負けたって……賭けの話か?)
太一の呟きの意味が良く分からなかった結有が僅かに眉を顰めた時、速度が落ちていくのを体感したと思う間もなく、タクシーが止まった。
信号だろうかと結有が息を潜めると、結有のすぐ前の座席から運転手の声が届いた。
「着いたよ。 住所はこの辺りだったけど、ここでいいの?」
その声に、渋滞に巻き込まれたわりには早く着いたな、といつもより近く感じる道程を結有は意外に思った。
呆れるくらいに太一の身の上話につき合っていた運転手だったが、ちゃんと仕事はこなしていたようだ。
そんなコトを考えながら太一がタクシー料金を支払っている様子を伺う。
次に太一は結有を揺さぶり起こすだろう。
そしたら結有は寝惚け眼を擦りながら、起こされたフリをしなければならない。
タイミングを間違えばタヌキ寝入りしていたコトがバレてしまうから上手く立ち回らなければ、と結有が考えていると、揺り起こされるコトも無くいきなり太一の声が降ってきた。
「着いたぞ、結有。 起きてんだろ? 降りろ!」
「っ!」
驚きのあまり、つい振り返ってしまった途端、太一とバチンと視線がかち合った。
嫌な汗が背中を伝うような気がして、結有は思わず呻くような声を漏らす。
「う…」
「お前の寝たフリなんてバレバレだっての。 サッサと降りろよ」
すでにタクシーを降りていた太一が背の高い体を屈めて、仏頂面で結有を見ている。
タヌキ寝入りがバレていたコトにバツの悪さを感じながら、渋々タクシーを降りるとすぐに腕を掴まれた。
先程同様、逃げるなとでも言いたげな仕草だ。
(自分ちの前で逃げるワケなんて無いだろ…)
そう思いながら顔を上げた結有は見慣れた我が家であるはずの場所に視線を移した途端、目を瞠り思わずダラリと顎を落としてしまいそうに驚いた。
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