(どうして? 何で目ぇ逸らすんだよ…)
祥悟のコートを掴む手から力が抜け、視線と一緒にストンと下に降りる。
これが答えなのだろうか?
思ってもみなかった祥悟の態度にショックを受けているはずなのに、感情がついて来ない。 心が麻痺してしまったように何も考えられない。
結有は落としたボストンバックをのろのろと拾い上げた。
どうしてそうしたのかは自分でも分からない。 麻痺した心と切り離された体が、勝手に意味も無く動いているようなそんな感覚を覚える。
「何か考えなければいけないコトがあるはずなのに」そう思うのに、耳鳴りが邪魔して頭が働かない。
けれど立ち尽くしたままバッグの持ち手をギュッと握りしめた時、ずっと聞こえていたのが耳鳴りなどではなく結有自身の心の声だと気づいた。
結有の心は麻痺なんてしていない。
祥悟に視線を逸らされた時から、ずっと痛いくらいに泣き叫んでいた。
受け入れ難い現実を認めたくなくて、それを否定するために繰り返し叫び続けていたのだ。
(嘘だ。 信じない。 こんなのは嘘だ……嘘だ、嘘だ…………嘘…)
「結有、俺は−−」
押し黙り心の中で嘘だ≠ニ繰り返す結有から視線を逸らしたまま、何かに迷うような顔つきで祥悟が言葉を繋ごうとした時、カッと頭に血が上り、結有は思いっきりその体を突き飛ばしていた。
「太一も、アンタも…みんな嘘ばっかりだ!」
そのまま祥悟の横をすり抜け、狭い階段を駆け下りた。
もしかしたら追いかけて来てくれるかもしれない。 女々しくもそんな気持ちが僅かにあったが、結有が息を切らしながら駆け下り地階へと飛び出した後も、誰かが階段を下りてくる気配も無ければ、エレベーターも止まったままだった。
その現実が真実を裏付けているような気がした。
(ホントに…全部、嘘だったのかよ……)
追いかけても来てくれない事実に耐え切れず結有はその場で項垂れた。 視線の先に自分の履くブーツの足先が見えたが何故かぼやけて見える。
そう思った瞬間、ポツリと結有の足元に滴が落ちた。
それを皮切りに俯いた結有の足先にパタパタと滴が零れる。
格好悪いなどと思う余裕も無かったし、止め方も分からなかった。
(信じろって言ったくせに……俺、騙されたんだ…)
誰かを信じて裏切られるのが嫌だった。
だから、もう誰も信じない。 好きになんてならないと決めたはずなのに。
結局また同じコトを繰り返したのか、と結有は自分を嘲笑った。
本当に自分でもバカみたいだと思う。 でも…。
(でも、祥悟さんのコトは信じたかったのに…)
☆
『 True Love なんて いらない 』 完結13 へ