「しないったって、一人暮らしなんだから多少はするだろ?」
『いや、まったくしない。 料理だけはどうにも相性が悪いんだ』
口調からすると冗談や謙遜ではないようだ。
オールマイティーなタイプだと思っていただけに、祥悟にも苦手な物があるのだと知った結有は驚くのと同時に嬉しくなる。
今まで何一つ祥悟に対して優位に立てるコトが無かったが、一つだけでもそれを見つけたのだから口許が綻ぶのも仕方のないコトだろう。
と言っても、結有だって作れる料理なんて大した数も無いのだけれど。
「分かった。 じゃあ、誕生日のメニューは俺に任せといて」
僅かに得意気な声のトーンで結有が請け負うと、祥悟の笑いを含んだ甘い声が耳元に囁かれた。
『楽しみにしてるよ。 それまでには絶対に仕事終わらせるから』
「うん」
そう結有が頷いた後、二人の間に沈黙が流れた。
それは引き伸ばし続けた電話の終わりを告げるための暗黙の了解のような静かな間だった。
このまま話し続けるコトなんてできないと分かっていながらも、名残惜しさは拭えない。
それでも祥悟の仕事のコトを考えればそうも言ってはいられないと、結有は後ろ髪を引かれる思いを感じながら口を開く。
「そろそろ電車が来るみたいだから…切るね」
「…そうか」
「仕事、頑張って…」
「あぁ…気をつけて帰れよ」
「うん。 じゃあね」
「あぁ…じゃあな」
再び流れた僅かな沈黙の後、受話口から通話の切れる音が結有の耳に届いた。
その音に言いようの無い淋しさを覚えたものの、結有はそれを振り払うように勢いよく立ち上がる。
2週間後には会える。 祥悟の誕生日までに作るものだって考えないといけない。 そう思えば会えない時間なんてあっという間のはずだ。
そう自分に言い聞かせて、結有が乗るはずだった電車がたった今 出て行ったホームへと向かうために歩き出した。
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