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翌週は水曜日からの3日間が期末考査で、最終日の金曜日にテストが終了するのと同時に、職員室や準備室への入室禁止も解かれたのだけれど、香月は美術準備室にはやって来なかった。
土曜日に拓が一方的に携帯を切って以来 香月からメールも電話もない。
もちろん、拓から連絡などできる訳も無く、何の音沙汰も無いまま丸一週間が過ぎたコトになる。
ほんの少し、テスト終了後に香月が来てくれるのではないかという思いを抱いていた拓だったけれど、それは見事に打ち砕かれ どんよりとした気分のまま学校を後にし、どうにもならない状況を憂える自分自身に 苛まれる週末をスタートさせたのだった。
(今度こそ 本当に終わったのかもなぁ…って、別に何も始まってなかったけど……)
何も始まっていなかった。 そう言ってしまえば そうなのだと拓は無理に笑おうとした。
でも笑えなかった。
確かに、二人の間には何も起こっていなかったし、始まっていもいなかったけれど、拓の中では香月に対する想いが抑えようのないほどに募っているわけで、すでに何も無かったコトになんてできる状態ではなかった。
(こんな風に呆気なく切れるくらいなら、何も気づいていない香月にからかわれるくらい どうってコト無かったのに…俺ってホントにバカだ)
そう思うと、自分のとった態度があまりにも子供っぽく思えて情けなくなり、いっそ 自分から香月に謝ってしまおうと携帯を手にするものの掛けられるはずもなく、結局 携帯をテーブルに戻す。
そんな不毛な行動を繰り返した。
そして、一体、何度同じコトを繰り返せば気が済むのかと、自分ながらに呆れ始めた土曜日の夜、拓の部屋に突然の来訪者が訪れた。
「誰だ? こんな時間に…」
面倒臭そうに独りごちて時計を見ると、9時半を回ったところだった。
特別遅い時間ではなかったが、他人の家を訪問するには非常識の部類に片足を突っ込んだような時間だ、と拓は思った。 そして、ノロノロと立ち上がると、インターフォンに手を掛け、無愛想な声ではい≠ニ応対した。
けれど、拓の態度は訪問者の声を聞いた瞬間、一変した。
「あ、と…遅くに ごめん。 俺…」
名前なんて名乗らなくても、間違える訳がない。
拓は、インターフォンを放り出すと玄関へ急いだ。
「香月?」
ドアを開いて そこに香月の姿を確認するより先に、拓はその名を呼んでいた。