Novel Library 3

□Happy one day
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  『 Happy one day 』


「…なんで……いるんだよ……」
 寝起き姿のまま、玄関のドアを開いた俺はそれ以上の言葉を見つけられずに固まる。
 予想するなんて絶対不可能な突然の訪問に、ただただ驚いて瞬きを繰り返すしかできなかった。

 その、およそ1時間前。
 10日ぶりに休日となった朝、昼まで惰眠を貪ってやろうと決めていたのに、いつも通りに目が覚めてしまった事にショックを隠し切れず意地でも寝てやると頭から布団を被る。
 が、連日の過酷な勤務に体は疲れてるはずなのに、一度目が覚めてしまったら睡魔はアッという間に煙のように消えてしまっていた。
 いや、俺は寝る。寝るといったら寝るんだ。
 今日と明日の二連休。一歩たりとも出かけるもんかと決めていた。
 何故なら、今日は12月24日。クリスマスイヴだからだ。
 しっかりと覚めきってしまった両目を無理矢理に閉じて寝返りを打つ。
 俺、野島 唯斗(のじま ゆいと)は、転勤のため地元を遥か離れての上京生活1年と3か月のしがないサラリーマンだ。ずっと望んでいた転勤とは言え、週休二日なんて夢のまた夢の勤務形態と、相思相愛の恋人との遠距離恋愛にややお疲れ気味の27歳。
 恋人とも会えないというのに、今日のこの日に休みになるなんて溜息しかでないっつーの。
 遠恋中の二つ歳下の恋人は、青木 素直(あおき もとなお)という無口で生意気で、俺を年上として扱わない可愛げのない男だ。
 昨年の俺の転勤がキッカケで正式につき合う事になったけど、遠恋ってだけじゃなく仕事のせいもあって、実際は月に一度も会えてなかったりする。
 というのも、サラリーマンでシステムエンジニアを生業にしているナオの会社は、多少の変動はあっても基本カレンダー通りの勤務。とは名ばかりの残業休出は当たり前、ブラック企業じゃないかと疑いたくなるほどのオーバーワークを強いられている。
 一方の俺は、インテリアメーカーのショールーム勤務だから土日は間違いなく出勤だ。基本は定休日の水曜休みで、たまにその前後に休みがくっついての二連休になる。
 大型連休も世間様とはずらしてじゃないと取れないし、接客業なんて人様の休みは繁忙期な訳だから、一般的な会社勤めのナオとはそもそも休みがまったく合わないんだ。唯一、数日でも合わせられるのは大晦日から年をまたいだ正月三箇日だけときてる。
 こんなんで1年以上も遠恋を続けられたなんて、正直いって奇跡だと思う。
 そりゃ、俺だって休みを使って帰省したし、ナオも時間を作って会いに来てくれた。
 その結果、遠恋は金と時間と体力をケチらずふんだんに使わなきゃ続かないものなんだと、この一年で痛感した。
 
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