Novel Library 2

□『 桜の季節に… 』
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「中止はダメっスよ。 絶対ダメ!」

 部長の言葉に佐藤先輩がものすごい勢いで反対した。
 佐藤先輩の剣幕に僕達一年生は意味が分からず顔を見合わせると、久遠先輩が黒板に背中を凭せ掛けたままの恰好で説明してくれた。

「うちの学校は年度初めに生徒会に各部の活動予定を報告しててさ、年度の終わりに提出する活動実績と照らし合わせをされるんだ。 で、実際に活動した形跡がないものは翌年から許可が下りなくなるわけ。 特にデッサン会は外部の、それも女の人が来るわけだから生徒会だけじゃなく先生たちのチェックも厳しいんだ。 つまり、今年 中止にすれば来年からは自動的にデッサン会がなくなるってコト」

 「なるほど」と頷く僕達。
 佐藤先輩がモデルのいないデッサン会決行にやたら意欲的な理由がようやく分かった。

「でも、そんなに佐藤先輩が固執するなんて、もしかしてデッサン会ってヌードデッサン――」

 最後まで言い終わる前に、部長の手刀が大木の額にキレイに決まった。

「んなわけあるか! そんな美味しい話、申請したって許可される訳ねぇだろ」

 確かにそうだ。 高校美術部のデッサン会で、そんなものが実現するとは常識的に考えれば有り得ない。

「っ痛ぇ、部長、本気で叩くの止めて下さいよ」

「つか大木、お前の中で俺ってどんな人間ってコトになってんの?」

 部長の陰から両手を握り合わせバキボキと関節を鳴らしながら佐藤先輩が出てきたのを見て、大木はサッと僕の陰に隠れた。
 ちょっと! 僕を巻き込むのはやめて欲しい。

「はいはい、じゃれ合うのもそのくらいにしとけ。 佐藤がエロ魔人なのは美術部では周知の事実なんだから、今更そんなコトで騒がない」

 部長がパンパンと手を叩いて、その場を終息させた。
 ただ一人、佐藤先輩だけは納得のいかない顔をしていたけど。

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