「それじゃ話を戻すけど、誰がモデルやるんだ?」
「え? 部員がやるんですか?」
気持ち眉を顰めて疑問の声を上げた一年生の浜田に、部長はまたしても面倒臭そうに視線を向ける。
「他に誰がやるんだよ。 つか久遠、さっきから教壇のとこでポーズ決めてんだから、お前このままモデルやれよ」
「は? 俺?」
まるで成り行きを楽しむみたいに、にこにこと部長と部員のやり取りを眺めていた久遠先輩はいきなり矛先を向けられて驚いたのか、目を丸くした。
その表情が、ちょっと可愛い。
「もう誰がやっても同じだろ? どうせ男しかいないんだし。 だからお前がやれ、久遠」
そう聞いて、僕の心臓が回転数を上げた。
久遠先輩がモデルをやってくれるのなら、思う存分 先輩を見つめるコトができるじゃないか!
普段は見ているコトがバレないようにチラチラと視線を送るコトしかできないのに、デッサンという大義名分があれば、それこそ穴が開くほど見つめたって許される。
そう思ったら、胸の前でスケッチブックを抱きしめる腕に力が入った。
描きたい。 久遠先輩のコト、ものすごく描きたい。
「ん〜別にやってもいいけどさ、俺なんて描いてもおもしろくねぇだろ?」
「だから誰を描いてもおもしろくないのは一緒だって――」
「そうでもないんじゃね?」
そう言ってクスッと笑うと、久遠先輩は不思議そうに首を捻る美術部員をゆっくりと見回した後、一番最後に僕を見て
「な、真史」
と、笑いかけてきた。