少し挙動不審だったかもしれないけど、先輩は気に留めた様子もなく
「最近、できたらしいぜ」
と、答えてくれた。
「でも、皆がデートについて行くの、よくOKしましたよね、岡先輩」
「OKも何も、あいつ等 岡のコト尾行しに行ったんだから」
「尾行?」
「そ、紹介しろったって岡が彼女と会わせる訳ないって分かってるから、こっそり後をつけるんだとさ。 すぐに見つかりそうなもんなのに、よくやるよな」
ホントだ。 総勢5人で後をつけたら誰だって気づきそうだ。
「先輩は一緒に行かなかったんですね」
「だって、俺まで行っちゃったら遅刻常習犯の真史に休部だって教えてやる奴がいなくなるだろ?」
「すみませんっ」
謝りながら少し嬉しくなる。
先輩が皆と一緒に行かなかった理由が、まさか僕だったなんて思いもよらなかった。
僕のコトを久遠先輩が気にかけてくれたコトがすごく嬉しい。
「真史の担任、HR長いもんな。 俺も一年の時 受け持ってもらったから知ってるけど、余計な話が多いんだよ、あの先生」
葉桜の下を二人で並んで、他愛もないコトを話しながら歩く。
何でもない通学路が特別なものに変わる瞬間を僕は噛み締めながら先輩に頷いてみせた。
――あの頃の僕は、まだ恋に恋するみたいにあやふやな形の定まらない想いで先輩を見つめていた。
会えるコトが嬉しくて、話すだけでその日一日幸せになれるような、そんな淡くて儚い想い。
それは多分、僕の遅すぎる初恋だったんだと今はそう思う――