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□『 True Love なんて いらない 』 完結9
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 慌てて結有も「いえ、すみません」と呟いて、場所を譲った。
 見ればカップルとおぼしき男女が楽しそうに話しながら商品棚を眺めている。
 明らかに自分が邪魔をしていたのだろうと、そそくさとその場を後にした。
 なんとなく気恥ずかしさを覚えながら、くだらない考えに囚われてぼんやりするなんて馬鹿げてると、頭を一振りする。
 とは言え、気づいてしまった現実は結有の頭を離れるコトはなく、眉間に僅かな皺を寄せたまま電球の入った買い物かごをゆらゆらと振りながら店内を一周した。
 考えなければならないだろう難問に頭は上手く働かず、買い物カゴに入れる商品も思いつかない。
 とりあえず祥悟に頼まれた電球さえ買えば問題は無いだろうと、レジに足を向けた結有はふとカゴの中に入れた覚えのない小箱が入っているコトに気づいた。

(げっ! さっきのスキン…いつの間にカゴに?)

 すぐに肩をぶつけられた時に落としたのだと気づいて入り口近くの商品棚に向かって足を返したが、そこにはまださっきのカップルが陣取るように立っていた。
 あの二人の前に割り込むように入り込んで、避妊具の箱を元に戻すのはかなりの勇気が必要だ。
 かと言って、こんな物を買ってどうするんだという思いもある。
 その辺の棚に適当に置き去りするコトも考えたが、物が物だけに迂闊に置き去りにするのは僅かながらにも良心の呵責を感じる。
 うろうろと商品棚の間を行ったり来たりする結有は、店側からしたら明らかに不審者だろう。

(つか、エロ本買おうとしてる中坊じゃないんだからっ! スキン買うくらいどうってコトないだろ)

 結有は目の前にあった商品棚からスナック菓子をいくつか掴むと買い物カゴに放り込み、そのままレジに向かった。
 コンビニで避妊具を買うコトが恥かしかったわけではないし、自分でそれを買ったコトが無いわけでもなかった。
 ただ、ついさっき気づいてしまった祥悟との関係のターニングポイントであるかもれしない今この時に、あまりにも即物的な意味を持つそれを買うコトがひどく恥ずかしい行為のような気がしたのだ。
 ご丁寧に茶色の紙袋に入れてくれた避妊具と商品の入ったビニール袋を受け取ったが、結有の出した札に対するおつりを出されるまでが妙に長く感じる。
 早くこの場を立ち去りたいと願う気持ちは、どう足掻いてもエロ本を買う中学生と大差は無いが、もう結有にはそんなコトを考える余裕も無かった。
 ようやく差し出されたお釣りとレシートを受け取るとジーンズのポケットに捩じ込み、足早にコンビニを後にする。
 背後から「あざーしたー」という、やる気の無さそうな店員の声が追いかけてきた。
 明らかに挙動不審な客であった結有の顔を店員はしげしげと眺めていたような気がする。
 きっと顔を覚えられただろう。 そう思うと歩く速度を速めながら「当分このコンビニには行けない」と、結有はやや自意識過剰気味に考えた。
 夏の名残りさえ感じなくなった初秋の夕暮れの街の中を、結有は俯き加減に歩を進める。
 が、途中でふと思いついて、ビニール袋の中からスナック菓子に紛れて放り込まれていた茶色の紙袋をおもむろに取り出した。
 そのままメッセンジャーバックの底の方に押し込む。
 こんな物を買ったと祥悟に知られるわけにはいかなかった。

(自分の気持ちもハッキリしてないのに、まだこんなの必要ないって)

 しっかりとジッパーを上げてバックを再び背中に回した。
 これでよし、とばかりに一つため息を吐くと、結有は祥悟のマンションに向かい歩き出した。
 
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