Novel Library 4

□『 True Love なんて いらない 』 完結9
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 パッケージのブランドロゴを結有はぼんやりと見つめた。
 つき合い始めた最初の頃はなんとなく結有も身構えてたところがあって、そんな雰囲気になりそうな状況に過敏になっていたが、あまりにも祥悟が変わらず、そういう雰囲気になるコトがなかったために いつの間にか結有のおかしな警戒心も解かれて行き、気づけば緩やかで穏やかな時間だけが過ぎていた。
 もちろん今日までまったく何もなかったわけではない。 ニアミスだって何度かあった。
 テレビのクイズ番組を見ていて互いの答えの相違に押し問答になり、それがそのままじゃれ合いのような押し引きへと変わって二人で床に転がり込んだ時には正直かなり狼狽えた結有だった。
 が、その時は祥悟がすぐに体を離して何事もなかったかのようにテレビを指差し、どちらの答えも間違っていたコトを指摘して笑い出したものだから、結有がドギマギした雰囲気など一掃されてしまった。
 またある時は放映されていた洋画で密度の濃いラブシーンが始まってしまい、まるでその場が家族団欒の席であるかのように気まずい空気が流れてしまった。
 いたたまれなさにテーブルの上のグラスに伸ばした結有の手と、同じく伸ばされた祥悟の手が触れあって更に結有を焦らせたのだけれど、ドキンと鼓動を揺らした結有が慌てて手を引っ込めた時ちょうどテレビがCMに切り替わり、それを機に祥悟はビールを取りに席を立ってしまった。
 そんな風に数度あったニアミスは祥悟のさり気ない一言や態度で総て消えた。
 たまに重ねられるキスでさえ、なんとなくいやらしいものになり始めると祥悟の方からフェードアウトして行き、躱されているような気がする。
 これはもう理性が固いというよりはすでに枯れているのではないか、とそんな考えが結有の頭を過る。
 そう思った直後に、誰に見られていたわけでもないのに結有は一人で慌てだした。

(いや、それはさすがに祥悟さんに悪いだろ)

 元々、祥悟が結有を抱かないと宣言したのは結有の気持ちがあまりにも不安定で、体だけの関係に固執したからだ。
 変わって行く人の気持ちを信じられない結有のために、気持ちだけでつながる関係を築こうとしてくれたのだ。
 だからこそ祥悟は敢えてセックスの無い関係を提案してきたのであって、それを枯れてる′トばわりされたのでは祥悟も立つ瀬がないだろう。
 なんとなくとは言え、そんなコトを考えてしまい祥悟に申し訳なく思う。

(でも、あそこまで何もしてこない祥悟さんにも責任はあるよな。 それとも、やっぱり元圏外の俺にその気にさせるだけの魅力がないとか…)

 そこまで考えて結有はまた一人慌てだす。

(ちょっと待てよ。 これじゃあ、俺が何か期待してるみたいじゃん)

 祥悟とのセックスの無い関係を、結有は今まで不満に思ったコトは無かったはずだ。
 セックスなんてしなくても祥悟が結有を大切にしてくれているコトは十分伝わっている。
 二人で一緒にいられるコト以上の何かを望んだりはしていなかった。
 でも…。

(考えてみたら、俺、健全な二十代男子なワケで……)

 祥悟とつき合い出してからの毎日は今までしたコトの無いつき合い方に戸惑いながらも幸せで、一緒に居られるコトに満足していた。
 
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