祥悟の優しさは癖になる。
こんな温かい優しさに触れたら、勘違いする者だっているだろう。
そう考えると、結有の中に嫉妬心に混ざって強い独占欲が湧いてくる。
その優しさを誰にも与えないで欲しい。 自分一人だけに向けて欲しい。
(俺だけの祥悟さんになって欲しい…)
まだ想いを口にするだけの勇気はなかったから、代りに祥悟の背に両手を回して抱きついた。
「どうした?」
流れ的には突然とも思える結有の行動に、祥悟は不思議そうな声で尋ねる。
「だって…さっき甘えて欲しいって言ったじゃん」
嫉妬も独占欲も隠してぶっきらぼうに言い放つ自分は、なんて意地っ張りなんだろう。
恋人同士になったはずなのに未だに気持ちを素直に伝えられない自分に嫌気が差す。
恋人に対してこんなにも可愛げが無いのは自分くらいのものだろう。
それとも世の中の恋人達でも、相手に素直になれないなんてコトはあるんだろうか?
「嬉しいよ」
不意に降って来た祥悟の嬉しそうな声に思わず顔を上げた。
眦を下げた祥悟が、結有の頬を愛おしげに撫でる。
「な、何が?」
「全部。 結有の言ってくれたコトも、してくれたコトも全部が嬉しい」
思わず結有は眉根を寄せる。
祥悟は変だ。
何一つ素直になれない結有は可愛げがないばかりで、そんな自分の態度に祥悟が喜ぶ理由が見当たらない。
それでも頬に触れる手は優しくて、素直になれない結有の本心を晒さずとも理解してくれているような言葉に体の奥がキュッと捩れる。
結有は、たった今 祥悟が言ったのとまったく同じコトを考えている自分に気づいた。
祥悟の優しく温かい腕に包まれるコトが、囁かれる甘やかな言葉が、その全部が嬉しくて愛しい。
分かってもらえているというのは、こんなにも嬉しいものなのか。
じわじわと胸の内に染みわたるように広がる甘い感情に、震えるほどの幸福感が沸き起こった。
幸せのあまり、つい隠していたはずの本音が漏れる。
「…あんま、あちこちで良い顔ばっかすんなよ」
うっかり溢した結有の本音はとても小さな声だったから、果たしてそれが祥悟の耳に届いたのかは結有にも分からなかった。