駅から祥悟のマンションまでは10分とかからない。
すぐにマンションに到着した結有は、通い慣れたエントランスを抜けエレベーターに乗り込んだ。
祥悟のケータイにコールしてから思いの外 時間が経っている。
あまり遅くなれば祥悟が心配するだろう。
インターフォンを押すと案の定「遅かったな。 何かあったのか?」と結有が一言を発する前に、祥悟の心配げな声がスピーカーから流れた。
いくらカメラで結有だと分かっているにしたって早すぎるだろうと、笑いを堪えながら結有は「ごめん」と謝る。
すると、すぐに「怒ってるわけじゃないよ」と聞こえインターフォンは切れた。
しばらくして玄関ドアの鍵を開錠する音がして、ドアが大きく開けられた。
「駅からここまで大した距離じゃないからな。 買い物してくるにしたってあんまり遅いと心配になるだろう?」
結有の顔を見るなりそう言った祥悟に、言いようの無いほどの嬉しさを感じる。
「ポテチ、何味にしようか迷ってたんだ」
祥悟に心配させたコトを悪いとは思いながら、嬉しさに頬を緩ませながら結有は答えた。
避妊具を持ったまま呆けていたコトは当然言えるはずもなく、適当な理由を口にした結有の背後でドアが閉まる。
ダウンライトの切れた玄関は少し離れたリビングのドアから漏れる灯りしかなく、ぼんやりとお互いが確認できる程度の明るさでしかなかった。
かと言って、僅かながらでも光源があるためにまったくの暗闇ではなかったせいで、結有は完全に油断していた。
靴を脱いで上がろうとした途端、上り框の僅かな段差に躓いて前のめりに倒れそうになったのだ。
「うわっ!?」
とっさにその体を祥悟が抱き止めたために、危うい所で床へのスライディングは免れた。
抱き止めてくれた祥悟にしがみついたまま、その腕の中で結有は安堵の溜息を漏らす。
「ハァ、びっくりした…」
「気をつけろよ。 足元が暗いんだから」
「…ごめん」
顔を上げ、自分の体を支える祥悟の顔を見ると目が合った。 その至近距離さに思わずたじろぐ。
不可抗力とは言え、こんな風に体を寄せ合いしっかりと抱き合うのはどのくらいぶりだろうと、思いがけない急接近に祥悟の温もりを意識してしまう。
服越しに伝わってくる体温に心臓が早鐘を打ち出したが、結有はその体温から離れたくなかった。