Novel Library 3

□『 SLOW LOVE 』 vol. 5
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 さっきの千早の態度は明らかに変だった。
 自分の部下が得意先の男とつき合うのは、何か不都合なコトがあるんだろうか?
 そりゃ仕事上、無いとは言い切れないかもしれない。
 だとしても、さっきの態度はそれだけではないような気がした。
 もしかして、千早も三波さんのコトを……。

「それじゃあ、佑香ちゃんのタイプって、どんな男なのかな?」

 俺を除いた3人で話はまだ続いている。
 調子に乗って三波さんにモーションをかける多田さんと、それに困ったような顔で受け応える三波さんと、角が立たない程度に間に入ろうとする千早。
 見れば、見るほど、俺の不安を掻き立てるような構図だった。
 三波さんが千早のコトを好きなのは間違いない。
 それなら、もし千早も三波さんのコトが好きだったとしたら?
 二人には何の障害もなく、両想いだというコトだ。
 当然、多田さんなんて障害どころか、目の前に落ちてる小石ほどの脅威もない。
 そして、多分、俺の存在も同じように何の妨げにもなりはしないだろう。

「聞いても良いですか? 多田さんはどんな恋愛がしたいですか?」

 突然、それまで質問されるばかりだった三波さんが多田さんに質問し返す。
 多田さんは三波さんから質問されたことがよほど嬉しかったのか。自分の恋愛観を熱く語り出した。
 それを聞いていて、多田さんは思いの外、結婚願望が強いコトを知った。
 全然まったく俺の好みではないけど、見た目だってそんなに悪い方じゃないし、仕事もできるし、出世コースで同期の先輩達の中では貰う給料の額がダントツいいと評判なのに、なかなか彼女ができないのはもしかしたらこの結婚願望の強さが原因なんじゃないかという気がしてくる。

「それじゃあ、チーフはどうですか? チーフはどんな恋愛が理想ですか?」

 多田さんの話が終わるや否や、三波さんは千早に同じ質問をした。
 多田さんの恋愛観に対して何一つの感想も言わずに千早に質問する彼女の態度に少し腹が立った。
 彼女にとって多田さんなんて眼中に無いのは分かっているけど、今のは露骨に態度に出しすぎだろう。
 この質問だって、ホントは千早だけにしたかったんだというコトがモロ分かりだ。
 隣に座る横暴だけど、どこかお人好しな部分もある先輩が気の毒で仕方ない分、彼女に対して感情が波立った。
 それともこれは、ただ単に同じように千早を好きな俺の、彼女に対する敵対心なんだろうか?
 
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