Novel Library 3

□『 SLOW LOVE 』 vol. 5
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 俺の足の上のバカでかい足の持ち主の顔を睨みながら「何するんですか!」と心の声で訴えると、酷く凶悪な顔に笑みを浮かべる熊に睨み返された。
 多分、手を出すなと言いたいんだろうが、お門違いも良いとこだ。
 そのまま足を踏み返してやった。
 思いきりかかとで踏みつけてやったから、さすがの多田さんも痛みに顔を顰めて言葉が出ないらしい。
 その隙に俺は、もう一度 三波さんに質問した。

「三波さんって、彼氏いるんですか?」

「え? あ…い、いませんけど…」

 言いながら、その視線が一瞬だけ千早に向けられたのを俺は見逃さなかった。
 この子の気持ちは間違いない。 それなら、千早はどうなんだろう?
 千早の顔を伺おうとした時、テーブルの下で多田さんの足が動くのが見えた。
 だから、すかさず三波さんに話しかけた。

「じゃあ、多田さんとかどうですか? 先輩、社内じゃ女の子に優しくてめちゃくちゃモテるんですよ。 頼りがいあるし、こう見えてエリートだし」

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚く多田さんと、目を丸くして俺と多田さんに交互に視線を移す三波さんにニコリと笑いかける。
 多田さんが一応エリート社員なのは本当だ。 社内の女子達に人気があるかどうかは正直言って不明だけど、取りあえずテーブル下の殺気は消えた。
 姑息だとは思うけど、多田さんに二度も足を踏まれたら次は痛い≠ニ口に出さずにはいられないと思うから致し方ない。
 そう思った瞬間、今度はテーブルの下で膝を撫でられた。
 途端に背筋に悪寒が走る。
 御礼のつもりですか?
 それなら今すぐ止めてくれっ!
 まるで電車内で痴漢にあったような嫌悪感に耐えながら目の前のビールジョッキを傾けた時だった。
 いきなり多田さんと三波さんの間に割って入るように千早が身を乗り出した。

「三波さんはうちの社のアイドルだから、ライバル多いですよ。 それに多田さんもずいぶんモテると伺ってますよ。 実はもう素敵な人がいたりするんじゃないですか?」

 途端に二人揃ってそんなコトは無い≠ニ否定し出したけど、俺はそんなコトどうでも良かった。
 それよりも、どうして千早がこんな形で割って入るのか、その方が気にかかる。
 多分、今まで一度として見たコトの無い、少し慌てた様子の千早に違和感を覚えた。
 これじゃあ、まるで多田さんと三波さんが上手く行ったりしたら困るみたいな態度じゃないか。
 どうして千早が?
 それって、もしかして、まさか…

「佑香ちゃんが井岡のアイドルって言うのは分かる気がするなぁ。 うちには佑香ちゃんみたいな子いないから、職場に華が無くて」

 俺のお膳立てと、千早のヨイショにすっかり気を良くした多田さんが、社内で言ったら女の子達に秒殺されそうな暴言を吐くのをぼんやりと聞きながら、俺の頭は全然 別のコトを考えていた。
 
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