3.
それから一週間、日々は何事も無く過ぎて行った。
再び画廊の定休日となり、梅雨の晴れ間に溜まっていた洗濯物でベランダをいっぱいにすると拓は一人バスに乗って出かける。
先週、大学を自主休講した香月は2週続けてサボるわけには行かず、朝から登校している。
それは拓にとっては好都合だ。
一人で向かった先は、先週 香月と一緒に行ったショッピングモールだった。
一週間悩んだ結果、香月の誕生日プレゼントはあのセレクトショップで見かけた天然石のアクセサリーに決めたのだ。
拓と違って香月は元々アクセサリーを好んで身に付けているが、天然石をあしらった物は持っていないはずだ。
それに前回の様子では、パワーストーンとしてではなくても何かしらの興味は持っていたようだった。
香月の言うところのプラシーボ効果だとしても、組み合わせで効能が変わるのはおもしろいと拓も思う。
たくさんある天然石の中からどの石を選ぶかはかなり骨が折れそうだと思うが、それもプレゼント選びだと思えば楽しい作業に思えるから不思議だ。
ショップに着くと、まず拓は前回見るコトの無かった石とは反対側のブースになっている革製品を物色した。
香月は貴金属製のネックレスは持っているから、革製のチョーカーにするコトは決めていた。
そこで理想に近い黒のチョーカーを見つけ、ペンダントトップには長方形のシルバーの物を選ぶ。
店員に確認すると、加工料はかかるがそのトップに天然石を嵌めるコトができると分かり、思い描いた通りの物が手に入りそうだとホッとする。
「問題は天然石だよな…」
石のブースに立った拓が、目移りするどころか目が回りそうなほどの量の天然石を前に途方に暮れた時だった。
「また会ったな」
短い言葉と共にいきなり背後から抱きつかれて、思わず叫び声を上げそうになった拓の前に直輝が顔をのぞかせた。
「直輝っ!」
まさか、また会うとは思わなかった。
驚きと共に「もう会わない」と、香月とした約束を思い出して拓は慌てる。
直輝は、そんな拓の狼狽に気づく様子も無く笑顔で言った。
「今日は一人?」