そうだろうか?
香月が自分に好意を持っているなんて、そんな素振りをされたコトがあったのか?
思い出せるのは、冗談めかした駆け引きのようにからかわれたコトだけ。
(あれが、そうだったのか?)
そう思った時、拓は少しだけ腹が立った。
「解りにくいっ!」
ずっと からかわれているのだと思っていた。 からかって、ただおもしろがっているだけなのだと。
怒ったような、拗ねたような口調で拓が文句を言うと、香月はどこか照れたような表情で笑った。
「ごめん。 でも、あれが俺の精一杯だったんだよ。 恋人と別れたばっかの拓ちゃんに告ったりしても、無駄かなと思って…でも、気持ちを伝えたい衝動は抑えられないし、つい混ぜっ返すような言い方しちゃったんだ」
香月のその言葉に拓の胸がトクンと鳴った。
同じだったのか。
拓が想いを伝えたくても 伝えられないジレンマに八つ当たりのような言動を取ってしまったように、香月もまた伝えたい想いを抑えるために それを口にする度、冗談にすり替えていたというのか?
「俺は拓ちゃんが好きだよ。 本気で好きだ。 拓ちゃんが恋人と別れて泣いてた時、俺なら拓ちゃんを絶対に泣かせたりしないのに、って思った。 いつだって嬉しいって笑顔の拓ちゃんの隣で、俺も笑ってたいって思った。 その時に拓ちゃんへの気持ちが憧れから、恋愛感情に変わってたコトに気がついたんだ」
言いながら、香月の手が拓の頬から離れ テーブルの上の拓の腕を取った。
暖かく ほんの少し汗ばんだ手が拓の手首を包むと、拓は自分の早いリズムを刻む脈拍が 香月に伝わってしまうのではないかと慄く。
香月が本気であるのなら、なおのコト伝わって欲しくない。
それは拓に香月の想いを受け入れるつもりがないからだった。
「あの人とは もう完全に終わったんだろ? だったら、拓ちゃん 俺とつき合って」
「落ち着けよ。香月の気持ちは嬉しいけど、俺達は教師と生徒で…それ以前に男同士で――」
香月に向かってそう言いながら、ゲイの自分が何を言ってるんだと、自嘲したくなった。
もうずっと自分の心の奥底の香月に対する気持ちを抑えて来たのに、香月の想いを知った今 それを拒もうとするのは自分が大人だからなのか? それとも、香月の気持ちを受け入れるコトが社会的に許されないコトだと知っているからなのか?