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□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 E
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「うん…」

「窓から見た景色?」

「うん……空、なんだ…」

 拓は、あの夏の日に 雄一と初めてキスをした絵画学部のアトリエの窓から見えた 目の覚めるような青空を描いていた。
 どうして、突然 あの窓からの空を描こうと思ったのか、それは拓自身にも判らなかった。 ただ、窓の外いっぱいに広がる青空と白い雲のコントラストが突然 思い起こされてイメージが広がった。 そして、描きたいと思った。
 もしかしたら、雄一の言っていたコトが影響しいてるのかもしれない。 自覚は無いけれど、変わってしまった自分というのを知りたくて、あの頃を思い出したのだろうか?

「…変わって欲しくないって……言われたんだ」

 スルリと、無意識のままに言葉が出ていた。
 けれど、言ってしまった後に拓は激しく狼狽した。

(俺は何を言おうとしたんだ? 雄一との痴話喧嘩の愚痴を生徒に話すつもりだったのか?)

 慌てて、別の話題を振ろうとした時、拓の肩越しから体を起こした香月が言った。

「何? それ、恋人に言われたの?」

 勘の良い香月は、たったあれだけの言葉で痴話喧嘩だと見抜いたらしい。

「……」

「…長く付き合ってる恋人が、昔のままの拓ちゃんでいて欲しいって言い出したってトコかな?」

 ふと思う。
 香月は、どうしてこんなに人の心を読むんだろう? たかだか17歳の子供なのに、香月は的確に拓の心を読む。
 だからだろうか? 香月には嘘が吐けない。 つい、言わなくていい本当のコトを言ってしまう。
 拓は、無性に香月に昨夜のコトを話してしまいたいと思った。

「……やたらと怒るんだ…俺が変わったって…。 でも、俺には何のコトか判らないし…」

 キヤンバスの中の描きかけの空を見ながら、拓は言葉を切ることが出来なくなっていた。

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