「ハッ、ハァッ……な…何すんだ、っきなり……」
颯生が途切れ途切れに抗議の言葉を投げかけると、修斗は、颯生を抱きしめる腕を緩めることなく言った。
「ずっと言えなかったけど、前から颯生が好きだったんだよね」
「嘘吐け、お前、元カノ 何十人もいるくせに!」
「嘘じゃないっつの。 俺、毎回 女の子と付き合うたびに、この子が1番好きな子になるかもしれないって思いながら付き合い始めててさ」
それは知ってる。と、颯生は心の中で思った。 以前、修斗にそう言われて、次々彼女を変える言い訳だとしても どうなんだと、呆れ返ったことがある。
「でも、どの子もみんな1番にならなくってさ。 だって、俺の中で1番は ずっとお前だったから――」
「え……?」
「颯生以上に好きになれる子を探してきたけど…無理だった」
修斗の言葉に、その顔を見上げると、優しい笑顔が颯生を見下ろしていた。
「颯生が俺の、不動の1番だから」
「修斗…」
「颯生は? 俺のコト、どう思ってるの?」
「どうって…」
子供の頃から ずっと一緒で、家族同然だったコトを思えば兄弟のような感覚になるのも自然な成り行きで、ましてや自分達は男同士なのだから恋愛感情を持つなんて、思いが及ぶはずもない。
颯生にとって、修斗は特別ではなかったのだ。 それは、決して悪い意味ではなく『居て当たり前』という感覚だった。
『居て当たり前』だった修斗が、逆に ずっと自分を特別視していたコトに驚きはしたけれど、嫌悪感は無かった。
むしろ、特別視されていて当然だという高飛車な想いが自分の中にあるコトに颯生は気づいた。
それは、長年 修斗の世話を焼き続け、『執事』とまで呼ばれた颯生一人だけのポジションで、修斗が誰と付き合おうとその場所だけは颯生の物だった。
今思えば、それは修斗にとって颯生が特別であったからこそ、変わるコトなく颯生にだけ甘えてきていた結果なのかもしれない。
では、修斗の特別が自分以外の誰かに変わったとしたら?
「俺は……」
絞り出すような声で、必死に言葉を探し颯生は考え続けていた。
あの時。
奏多が、修斗の『1番好き』な相手になったのかもしれないと思った時、心の底から応援できなかったのは何故だろう?
そんなコトは、もう判り切っていた。
ちょっと付き合いの女の子達なんて、端から相手じゃなかった。自分の方が、ずっとずっと修斗に必要とされているという自信があったから。
でも、孝輔への嫌がらせを奏多へのアプローチと勘違いした時は、奏多に嫉妬した。
大切な物を失くす現実が怖くて、自分の気持ちを見て見ぬフリするほどに嫉妬していた。
(…何だ、俺、こんなに修斗のコト好きだったんじゃないか……)
くすり、と笑いが漏れた。