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□癒やしの時間
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*設定/同棲中。社会人。
―――のし、と後ろから重みがかかった。
お昼ご飯を食べたあとで、片付けも終わった13時過ぎ。
買ってから読めずにいたハードカバーの単行本を手に取ったところに突然訪れた重みに、里奈は困惑混じりに「悠太くん?」と声をかけた。
「あの、どうしたの?」
「ん? 気にせず読んでください」
「何か用事じゃないの?」
「くっついてたいだけ。里奈不足」
「えっと、じゃあお喋りする?」
「それ、ずっと読みたそうにしてたでしょ。大丈夫」
「そう……?」
もちろん里奈も忙しい日々の中で悠太と過ごす休日は待ち遠しく恋しかった。
けれど本の誘惑に勝てなんだ。
中学生の頃から大好きな作家のシリーズで、その新刊が一昨日発売日だった。
迷わずその一冊を持ってレジに並んだが、読む暇がまったく取れず今に至る。
本と悠太との間で揺れていると、悠太が小さく笑った。
「その代わり、夜は相手してもらうから。お気になさらず」
「!!」
「ほら、早くしないと読む時間無くなっちゃうよ」
「そ、そういうことサラッと言わないでください……」
悠太の顎が肩に置かれていたので、耳元にダイレクトで悠太の声が鼓膜に響くものだから、里奈は本どころじゃないのではと困った。
***
……何だかんだ、読み始めたらこれだもんなぁ。
里奈が本を開いて小一時間が経ち、今は悠太が里奈を後ろ抱きにして彼女がこちらに寄りかかっている体勢に変わっていた。
最初はこちらを気にしている様子だったが、15ページほど進むと、すっかり物語の世界に入り込んでしまった。
大して体勢も本の持ち方も変えず、里奈は読書に没頭している。
悠太は単行本はめったに読まないが、分厚いと長時間持っていると腕が疲れる。
里奈の読んでいる単行本はそれなりの厚さで、細い彼女の腕には負担が大きく見えるのだが、里奈はそんなことも感じないほど夢中になっている。
本を読んでいる里奈は面白い。
たまにクスッと笑ったかと思えば、固唾を飲んで体を固くさせ、ほっと力を抜く。
その度に吹き出しそうになるが、邪魔をしたくはないので笑いを噛み殺す。
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