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□惚れた弱みに逆らう術を僕は知らない
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*設定\大学生。互いに1人暮らし中。
《風邪をひいてしまいました。明日のデートは行けそうにないので、また別の日に埋め合わせをします。本当にごめんなさい。》
そんなメールを悠太の携帯が受信したのは、里奈とのデートを翌日に控えた金曜日のことだった。
里奈は先月から一人暮らしを始めたばかりで、今は1人でアパートの部屋にいるはずだ。
大丈夫だろうか、容態はどれほど酷いのだろうか。訊きたいことは多々あったが、もう外は真っ暗で里奈の家を訪ねるには遅過ぎる。
電話をかけるのも風邪で辛くて寝込んでいる里奈を思うと憚られる。
明日お見舞いに行きます、とだけメールをして悠太は落ち着きのない気持ちで布団に入った。
***
簡単なお見舞い品をいくつか見繕って里奈のアパートへと向かう。
大した距離ではないので20分ほどで着いた。
お互いに自分のアパートの合い鍵を渡しているので、それを使って玄関のドアを開ける。
静かな部屋へ、里奈が寝ているかもしれないのでそっとお邪魔する。
りんごや飲み物、プリンなどを小さな一人暮らし用の冷蔵庫に入れさせてもらい、里奈のベッドがある部屋へ向かった。
布団から見える人の膨らみに、音を立てないよう慎重に近づく。
汗ではりついた黒髪と紅潮した頬が、熱の高さを物語っていた。
既に温くなってしまっている額の冷えピタを剥がして、冷蔵庫に保管されていた新しいものに張り替えてやる。
冷たかったのか、里奈の身体が身じろいだ。
「……ゆ、たくん」
「ごめん、起こした」
「ううん……。来てくれてありがとう」
あまり呂律の回っていない口調で里奈が微笑む。
声は出ているので、のど風邪ではないようだ。
「どう致しまして。熱は計った? ご飯と薬は?」
「えーと……、38度9分だったかな。ごはん、は。昨日の夜にたべたきり」
「高いな……。とりあえずお粥作ってくるから、パジャマ新しいのに着替えて」
ぼんやりとした表情で頷く里奈を抱き起こして、タンスからパジャマを適当に一つ取り出して渡す。
部屋の扉は木製の引き戸なので、それを仕切りに悠太は台所へ向かった。
簡単なレトルトのお粥を温めて、潰した梅をのっける。りんごを食べやすい大きさに切って、手頃な器に盛りつけ薬と水を用意した。
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