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□おあいこ。
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―――それを見つけたのは、偶然だったのか必然だったのか。
お手洗いに向かおうと教室を出た里奈の視界に入ったのは、廊下の隅に落ちていた一枚の写真だった。
写っている人物を見て、反射のように心臓が跳ねる。
無視することもできたのに思わず手にとってしまったのは、まだ彼への想いがいじましくもくすぶっているからだろう。
「へえ、高橋も悠太くんの写真買ったんだ?」
「え、じゅんちゃん!? ちがっ、そこに落ちてただけで……!」
「なんだ、そうなの」
後ろから現れた友人に慌てて訂正する。
面白くもなさそうに頷く友人に、何となく気まずくなって自分を責めた。
―――ああもう、なんでここで気軽に話せないかな。
頑張ろうとは思うのに、今も上手に人と関わることができない。
どう話を切り出して良いかもわからず、焦りばかりが胸につかえてしまう。
「その写真」
「あ、うん」
「なんかファンの子の間で出回ってるんだって。浅羽兄弟の」
「そ、そうなんだ。じゃあ落とし物、かな」
「前に高橋付き合ってたじゃん、悠太くんと。面白くないんじゃないの?」
からかい口調の友人に、里奈はどう反応したものかと目を泳がせる。
普通ならここで軽口を返せば良いのだろうが、生憎それが出来れば苦労はしていない。
それが友人との居心地を悪くしていることもわかっているのに、思うようにはいかない。
「そんなこと、ないよ。悠太くん格好いいし、人気あるのは前からだし」
「ふぅん? まあいいや、早くお手洗い行こ」
結局無難な返事で終わってしまったことを反省しつつ、前を歩く友人を追いかける。
手に持っている写真は、少し迷ってからポケットに忍ばせた。
***
―――やっぱり、落としたままにしておけば良かったかな……。
帰り道、ひとり帰路を歩くなかで、里奈は肩に下げる鞄にふれた。
思わずポケットに入れてしまった悠太の写真だが、どうしていいかわからず鞄にしまった。
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