shortstory

□休日オモチャ
1ページ/1ページ





 風化学園の門をくぐり抜けながら晶は欠伸を零した。


 左手に持つレジ袋にはバターや小麦粉、アイシング用の粉砂糖などお菓子の材料が入っている。

 いつものようにお菓子を作ろうとした巧海だったが、途中で粉砂糖が無いことに気が付き、晶が買い物に走ったのだ。

 バターや小麦粉は買い置き用としてついでに頼まれたものだ。

 そろそろ今年も終わりだな、と白い空を見て思う。

 冬休み中の学園内は静かだ。

 寮生には帰省するものも多く、活動をしている部活も少ない。

 確か命や楯がいる剣道部は冬休みも活動をしているはずだ。

 そんな事を考えていると、後ろから聞き慣れた声がかかった。


「おお! 晶じゃないか、奈緒見ろ。晶がいるぞ」


 声の方に振り向けば、道着姿の命と修道服を着くずしたシスター姿の奈緒がいた。


「見ればわかるわよ。レジ袋持っておつかいの帰り?」


 訊かれた問いに「はい」と頷く。

 媛の戦いでは色々あったものの、今では蟠りもなく話せる。

 命と奈緒は相性が良いのか一緒にいることが多く、たまに捕まって良いオモチャにされることが多々あったり。

 また何かされるかと、やや警戒しながら話しが進められる。


「今部活が休憩中でな、奈緒と買い物に行っていたんだ。見ろ、美味そうだろう」


 ずいっと小さなレジ袋いっぱいに入ったお菓子を目の前に掲げ、満足そうな笑顔で同意を求めてくる。

 媛の祭が終わってからというもの、命のエレメントだったミロクが消えてしまい、命は退屈そうに日々を過ごしていた。

 それを見かねた舞衣が剣道部への入部を進めたのだ。

 荒々しかった剣術は綺麗な太刀捌きになり、今では剣道部のトップである。


「晶も剣道部に来い。みんな弱くてつまらないんだ」

「……それは命先輩が強過ぎるんだと思います」


 そりゃそうよね〜、と奈緒もロリポップキャンディを舐めながら頷く。


「あーんなバカでかい剣振り回してた奴に勝てる奴なんてそうそういないわよ」

「私はバカじゃないぞ!」

「あーはいはい。おバカちゃんだったわね」


 奈緒!、と怒鳴る命を奈緒は面白そうに笑っている。

 そういえば、と命が晶に向き直る。


「何で晶は運動部じゃないんだ?」

「ああ、あんた美術部だっけ」


 晶の身体能力は普通の人間よりも遥かに優れている。

 それを知っている命や奈緒からしてみれば疑問である。


「えっと……、」


 言いにくそうに後ずさる晶に、奈緒は気づいたようにニヤリと笑った。


「そうよねぇ。男はココ、無いもんねぇ?」

「なッ……!」


 ちょんっとさらしで押しつぶされた膨らみをつつかれ、反射的に胸を押さえて仰け反れば、奈緒が楽しそうに笑う。


「運動部入ったらバレやすいから美術部なのね」


 キッと睨みつけるが、奈緒は痛くもかゆくもないといった感じだ。


「私はじっとしているのは苦手だ。動くより疲れる」


 まあ命ならそうだろうと苦笑する。


「その点剣道部なら動くし暴れられる、どうだ。入る気になっただろう!」

「なりません」


 晶の即答に不満げに口を尖らせる命はまるで小学生だ。


「晶は肩がこらないのか?」

「え、あーたまに」


 夢中になると何時間も同じ姿勢でいることも多く、気づいたら日が暮れていたなんてことも珍しくない。

 肩凝りが酷い方ではないが、痛い時は巧海がマッサージ役を買って出るので頼んでいる(たまに悪さ付きだが)。


「いーわよね、あんたのカレシ器用で。私なんて命に頼んだら話しにならなかったわよ」

「む、私はちゃんともんだぞ」

「命のは肩もみっていうよりくすぐりなの」

「そんな事はない! 晶揉んでやる、奈緒にくすぐりじゃないと言ってくれ!」

「え、ちょっ―――」


 晶の制止も虚しく命が晶の肩に手をかける。

 肩をつかまれた瞬間、反射的に逃げようとしたが、ほんの1秒遅かった。

 奈緒の言ったことに同意せざるを得ない感覚が肩から走り、抑えていた高い声が呆気なく漏れる。

 しまった、と口を押さえるがもう遅い。

 恐る恐る2人を見れば目を丸くしている。


「やっだ……あんたちゃんとそういう声出るんじゃない」

「そういう声言うな!」

「晶が女みたいな悲鳴あげたの初めて聞いたぞ」


 たまげたような顔で言われ「当たり前だ!」と真っ赤になって噛みついた。

 男のフリをしている中で、そう何度も悲鳴なんざあげていられない。


「お、俺もう行くんで、失礼します!」


 逃げるように踵を返した晶の肩を奈緒ががしりと掴む。


「……何すか」

「その袋の中身、もしかしてお菓子の材料?」


 ぎくりと眉を寄せた晶の態度でビンゴだと踏んだらしく、ニヤリと笑った。


「お菓子? 巧海が作るのか? 食べに行くぞ!」

「はあ!? 命先輩部活あるでしょう!」

「一度サボっても問題ない。うむ、そうと決まれば早く行こう!」

「待て! 誰も良いなんて」

「ほらほら諦めなさい。行くわよ〜」


 2人に腕を掴まれ、抵抗も虚しく晶は引きずられるしかなかった。










FIN.




タイトル通り休日にオモチャにされちゃう晶くんなのでした。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ