shortstory

□みっくすジュース
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 “ドリンクバーの無料券あんだけどいかないか?”

 それはクラスメートである米沢からの誘いであった。

「またお前はそれかよ、たまには別の誘いねえの」

「なんだよ滝ー。行かねえならそれでもいいんだけど? 鴇羽と尾久崎は行くだろ」

 何かと食べることに頭がいくらしい米沢を滝が茶化すと、米沢は面白くなさそうに巧海と晶に話を振った。

「んー、無料なら行く」

「晶くんが行くなら」

「……鴇羽、お前は尾久崎についてくのか」

 呆れて言う米沢にいっそ潔く、うん、そうだけど?と巧海は笑顔で言い放つ。

 最早突っ込む気すら削がれて米沢は滝にも来るように命じた。

「勘弁してくれ、俺1人じゃなんか辛い」

「あー……わかるぜその気持ち」

 この2人がホモでないのはわかっているのに(怪しく思うときもあるが)何故かあてられる気分になる。

「やっぱお前らホモ……」

 ボカっ

「うるせえ、ふざけたこと言ってると骨折るぞ」

 晶は容赦なく地雷を踏んだ滝の後頭部を殴りつけ、ギロリと睨みつける。

「こえーよっ! 何だよ骨折るって!?」

「ならもうちょい頭使って物言いやがれ! 科白は一度脳内で復唱してから出せっての!」

「無茶言うなよ! 俺の頭でそんな芸等出きると思ってんのか!?」

 何せ滝の中間試験結果は全て10点代である。

「開き直ってんな!」

「直るわ! つかそれくらいお前もわかれ! 逆に頭悪いわ!」

「ああ!? てめもっぺん言ってみろ、好きな部位折ってやる!!」

「鴇羽! 鴇羽助けろ!」

「あははー」

巧海の後ろに素早く回り込み助けを乞うが、巧海は笑ってスルー。

「薄情者! その天使の微笑みはパチモンか!?」

「いや知らないけど。僕晶くんの味方だからさ」

「てめえ滝、巧海盾にしてんじゃねえよ!」

 素早く滝の後ろに回り込みワイシャツのエリを掴む。

「鬼ーーっ!!」

「……よし、今日はパフェでも食うかなー」

「米沢! お前まで俺を見捨てる気か!?」

「何も見えない聞こえない気づいてない!!」

「現実逃避すんなばか!!」

 怒鳴ると同時にボタンをとめていなかったワイシャツを脱ぎ捨て、タンクトップ姿で晶からすり抜け逃げ出した。

「あ! くそっ、ちょこまか逃げねえで折らせろ!!」

 ―――その日の教室にはやたらと野次馬が集まり、晶と滝の攻防戦を笑いを交えて見守ったそうだ。




「ひでえ眼にあった……」

「自業自得っつーんだよ、そういうの」

「滝は頭が1賢くなった、と」

「要らん解説すんな」

「事実だけどねー」

「……」

 無料券が使えるファミレスへとやってきた4人は、巧海と晶が奥のソファへ座り、椅子側に米沢と滝が座っている。

 あの後滝は晶から骨は折られなかったものの、散々技を掛けられた。

 当然ながらそれを助けようとする勇者はいなかった。

「晶くん何か食べる?」

「室内はクーラー効いてるしアイスは違うよな……このケーキとかは?」

「二種類あるねぇ、2つ頼んで半分こずつにする?」

「あー、そうだ……」

 そうだな、と返答しそうになったところで慌てて口を噤んだ。

 感じる視線は米沢と滝である。
 恐る恐る2人の顔を窺うと、やはり驚いたようにこちらを見ている。

 ついいつもと同じようにしてしまったが、どう考えても今のは男友達の会話からズレた。

「……ポテト食う」

「え? ケーキは?」

「お前はケーキ食っとけ」

「うん……?」

 何故晶が注文を変えるのか分からず、訝しげに首を傾げていると、晶が通りかかった定員を呼び止めオーダーを頼んだ。

 定員が来たことで、どうやら2人の気はそれたらしい。



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