shortstory

□身長の差
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「やだヒカル、あなたあかりちゃんより小さいんじゃないの?」

「はあ!?」


 テレビの前であかりとゲームに夢中になっていたヒカルに、後ろを通りかかった母、美津子は爆弾を落とした。

 キキィーーッ

 テレビ画面の中で赤いスポーツカーがレールにぶつかり、回転。

 そして―――ドォンッ!


「ああ、横転しちまった!」

「やった勝った!!」


 きゃっきゃっと喜ぶあかりの隣でヒカルは唖然と画面を見る。


「お母さんが変なこと言うから負けただろ!!」

「あらやーね、人のせいにしないでちょうだい」

「そうだよヒカル、負けは負け」


 美津子は恨めしそうに睨みつけてくる我が子軽くあしらって、取り込んだ洗濯物をたたみ始める。

 あかりは笑っていつもバカにされているお返し、と言わんばかりに大きな顔で「ふふん」と勝ち誇った。


「んだと! お前なんかいっつも負けて泣いてるくせに!」

「いやー痛いー!! いつも泣いてないもん、今日は勝ったもん!!」


 あかりの髪をひっつかんで押し倒すが、勝った勢いで力の入っているあかりも足でヒカルを蹴る。

 取っ組み合いの喧嘩が始まった2人に気がづいた美津子が慌ててヒカルを引っ剥がした。


「たくこの馬鹿息子! 女の子の髪引っ張るんじゃないわよっ」

「けっ、お母さんの前で猫かぶってるだけだせ。いっつもこいつ俺とケンカしてんだからな、この前の傷だってあかりが―――」

「言い訳却下、問答無用!」


 まったく、とため息をついて美津子は畳んだ洗濯物をしまいに二階へ行ってしまった。


「この猫かぶり」

「あかり猫じゃないもん」


 ボソッと低く呟いたヒカルに、あかりは頬を膨らませそっぽを向く。


「……なあ、お前身長いくつになった?」

「わかんないけど、春の健康診断の時より伸びたってみんな言ってる」


 実を言えばヒカルもあかりの目線が自分より高くなっている気がしていた。

 そこに美津子が落とした爆弾はかなりの威力である。


「あかりちゃん、ヒカル。こっち来て」


 ちょいちょいと、廊下から顔を出した美津子が手招きをする。廊下の壁の出っ張りにあかりを立たせ、持っていたマーカーのキャップを外した。


「ちょっとじっとしててねー……、よし。次はヒカルよ」


 マーカーで印を付けると、同じ位置にヒカルを立たせまた印を付ける。


「ほら見なさいよ、ヒカルの方が3センチは小さいわね」

「うるっせーな! 絶対ついか超してやるんだよ!!」

「そしたら私も伸びるもん。絶対抜かれないわよーだ」

「絶対抜かす!」


 それが現実となるのは、まだ数年あとの話である。




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