shortstory
□詮無くも、偶然に問う
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―――なんで、俺だったのかな。
なんでアイツは、俺の中に入ってきたんだろう。
突然現れて突然消えて。
俺に囲碁を残して、俺に思い出だけを残して、佐為は何故消えてしまったんだろうか。
「ヒカル?」
「え?」
声の方へ振り向くと、小首を傾げたあかりが碁盤を軽く指先でつついた。
「ヒカルの番だよ。どうしたの、ボーっとして」
「……いや?」
碁笥から白石をつまんで、碁盤にパチリと置くと、う、と呻いたあかりが首を捻って考え出す。
顎に手を添えて考えるあかりの仕草はいつまでも変わらない。
春のそよ風が、縁側で碁盤に向かう恋人たちの髪を掠めた。
「ほれヒカル、あかりちゃん。お茶だぞ」
「サンキュ、じいちゃん」
「すみません、ありがとうございます」
ヒカルの祖父、平八が自分の湯のみを取って碁盤の横に胡座をかいた。
「あかりちゃんも碁を打つようになるとはなあ。あとで儂とも打ってくれるかな」
「もちろんです、でも私ヘタだから」
「いやいや、好きかどうかが重要だよ」
そう言ってお茶をすする平八に倣い、あかりもいただきます、と熱いお茶を冷ましつつ口を付ける。
ヒカルも湯飲みに口を付け、そっと前に座るあかりの様子を窺う。
着いたばかりのときは久しぶりなせいか緊張していたが、だいぶ慣れてきたようだ。ほう、と安心して息を吐く。
あかりとの交際を伝えたヒカルに、あかりを連れてこいとせっついたのは祖父だった。
最初こそ渋ったヒカルだが、あまりのしつこさに結局折れた。
幸いあかりは春休み中だったので、日にちはあっさりと決まり今に至る。
「負けました」
「ありがとうございました」
あかりが降参しヒカルも頭を下げる。
「悔しいっ、簡単なところミスしちゃったー! こんなで私大会大丈夫かなぁ」
「ま、その時次第だな」
「じゃあ次は儂の番だ」
「あ、待ってじいちゃん」
待ってましたと腰を浮かせる祖父を片手で制すと、あかりと平八が怪訝な顔をした。
「ちょっと先に蔵行ってきたいんだ。あかりも連れていきたいから」
「私?」
「んー、まあ良いか。早くしてくれよ」
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