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□狸寝入り
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『狸寝入り』



「巧海?」

 晶が風呂から出ると、巧海が晶のベッド寝ていた。

 何をどう間違えれば晶のベッドで寝てしまうのか。

 巧海の机を見ると教科書とノートが広げたままになっている。

 晶が風呂に入る時に教科書を鞄から取り出していたから今まで宿題をしていたのだろう。

 休むにしても自分のベッドで横になればいいのに。

「おい起きろ、寝るなら顔くらい洗え」

 軽く揺すっても巧海からは穏やかな寝息が聞こえるだけだ。
 小さく身じろいたが起きる気配はない。

 ―――もうちょいしたら起こすか。

 たたき起こすこともできるが、この穏やかな顔を見てしまってはその案は憚れる。

 なんだかんだ自分は巧海に甘い。

 舞衣やなつき、奈緒などに甘いと言われるのはこういうところだろうというのは流石に自覚している。

 自分も宿題を済ませようと鞄から教科書などの勉強道具を取り出す。

 ふと目に入ったスケッチブックを手に取り、パラパラと音を立てめくった。

 描かれているのは巧海。
 随分描きためたものだと我ながら思う。

 横顔、後ろ姿、笑顔、拗ねた顔、友人と会話をしているところ、料理中のところ―――何気ない日常の姿がスケッチブックひとつに詰め込まれている。

 空白のページを見つけてベッドの横に椅子を移動させ座り、鉛筆を滑らせる。

 細い鉛筆の先を迷いなく紙の上に滑らせると、浮き出るように人の形ができる。

 長い睫毛に癖のある髪、少しずつだが確実に成長している体躯。

 晶は忠実に紙に描く。

 本人に言わせればラクガキ、他人に見せるような物ではないらしいが。

 しばらくして描き終わりスケッチブックを元にあったベッドの下にいれる。

 そろそろ起こそうかと巧海に近づいて膝を付き―――ふと揺すろうと伸ばした手を止めた。
 
たまには、眺めてみるのも良いか。

 巧海の寝顔など散々見たが、ここまで近くで見たことはあまりない。

 前髪を払うように指で優しく触れる。

 サラリとした茶色の髪。
 巧海は晶の髪を綺麗だと言ったが、晶は巧海も綺麗だと思った。

 すぐ傍に愛しい人がいる幸せ。
 くっいてくる温もりは鬱陶しくて暑苦しくて―――優しい。

 今日くらい寝床代えてもいいか。

 起こすことを諦めて苦笑しながら立ち上がろうとベッドに手を乗せ―――強く引っ張られた。

 咄嗟のことに崩れた体制は直せず巧海が寝ているはずのベッドに倒れ込む。事態を飲み込む前に顎をつかまれ上を向かされた。

「―――っん!」

 混乱する中、唇に押しつけられた温もりでようやく事態を飲み込んだ。

 視界を支配するのは寝ていた筈の巧海。

 ―――コイツ狸寝入りしてやがったな!?

 だが言いたい文句はキスに呑まれて甘い吐息に変わってしまう。

 段々と深くなるキスに苦しさを覚えて、巧海の髪を引っ張り離すように促す。

 だが離れたのはそれよりしばらくした後だった。

 ようやく解放された晶は肩を上下にして呼吸を整える。

 怒鳴ってやりたいができず、巧海に身を預ける状態だ。

「―――いきなり何すんだおめぇはっ!!」

「晶くんがスケッチ終わる数分前に起きたんだけどね。なんか起きるタイミング掴めなくて。そしたら晶くんが近づいてきて、キスでもしてくれるかと思って待ってたのに晶くんどっか行っちゃうんだもん」

「それとこれとどうゆう関係があんだよ!」

「うーん、したかったから」

 しれっと笑顔で言ってのける巧海に毒気を抜けてしまいそうになる。

「あーっ、たく! 次ここで寝てたら叩き起こす!!」

「え〜、キスで起こしてよ」

「誰がするか! つか何で俺のとこで寝てんだよ!」

「晶くんの匂いが心地良くていつの間にか寝ちゃって」

「ならベッドに乗るなっ!」


 2人の言い合いは夜遅くまで続いたそうな。










FIN.



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