clip

□写真
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 それを拾ったのは、移動教室途中の廊下だった。

 偶然視界の端に入った、長方形の小さな紙切れを立ち止まって手に取る、と。

 晶の横顔があった。


「何だぁ、その写真。尾久崎じゃん」

「さあ……。そこに落ちてた」


 何だ何だと立ち止まった巧海の手元に、滝と米沢の視線が集まる。

 拾った写真はとても巧いとは言えないアングルで、どう見ても隠し撮りだ。


「それな、女子の間で出回ってるやつだよ。未だに尾久崎の人気は冷めることを知らんからな」

「へえ」

「他人事みたいな顔してっけど、お前もだからな鴇羽」

「はい?」


 キョトンと目をぱちくりさせる巧海に、解説を入れた米沢がため息を吐いた。


「そりゃそうだろ。尾久崎に続いての人気者なんだから」

「良いよな良いよな! 一度でいいからモテてみてえよ畜生!」

「お前はまだ良いだろ滝、フラグ立ってる女子がいるんだからよ!」

「はっ!? 三橋はそんなんじゃねえよ!」

「誰も三橋なんて言ってませんー」

「てめぇヨネ!」

「何やってんだ、お前ら」


 後ろからやって来た晶が取っ組み合う滝と米沢を横目に見て、目敏く巧海が手に持つ写真に気がついた。


「何だ、その写真」

「そこで拾ったんだ。晶くんの写真」

「はあ?」


 怪訝に眉を寄せた晶が、写真を見てさらにシワを深めた。


「……こんなものを撮ることを許可した覚えは一切ないぞ」

「見るからに遠目から撮ってるし、隠し撮り写真みたいだよ」

「そんなの撮ってどうすんだ?」

「目の保養だろ。美形少年」


 肩に腕を回してのしかかる滝を、晶が顔をしかめて払う。


「気安く触んな」

「ひどっ!」


 本気でしょげた滝に晶が若干気負ったように身を引くが、こればかりは仕方ないと巧海は苦笑した。

 見た目は誤魔化せても、直で触れれば晶の細い身体はすぐに女だとバレてしまうのだから。


「男のくせにナヨナヨすんなよ、三橋にでもくっつけ!」

「尾久崎まで言うか!」

「そりゃあ、見るからにくっつきあぐねてるとこ毎日見てれば言いたくもなるよ。もどかしいったらないもん」

「鴇羽ぁぁぁっ!」


 滝が巧海の口を塞ぎにかかったところに、狙ったかのようなタイミングで現れた三橋に動揺した滝を見て、その場に3人の笑いが弾けた。




***




「晶くん、こっち向いて」


 次の瞬間、パシャッと機械音とライトが光る。

 巧海が持っているのは携帯で、どうやら撮られたらしい。


「いきなり何だよ」

「晶くん写真うつり良いね。今日拾った写真はちょっとひどかったな」

「消せよ、今撮ったやつ」

「やだ」

「やだじゃねえ」


 椅子から立って素早く巧海の手から携帯を引ったくり、削除の操作を済ませる。

 口を尖らせて不満そうに眉を寄せる巧海の額を軽く弾いた。


「何で消すのさ、巧く撮れたのに」

「撮られんのは好きじゃないんだよ。遠目とはいえ撮られてたのは不覚だった。これからは気をつける」

「僕なら良いでしょ?」

「だーから、好きじゃないんだっつの」


 粘る巧海をいなしながら机の宿題に戻る。

 自分の椅子を持ってきて隣に座った巧海が、「一回だけ撮らせてくれない?」とせがまれ、顔をしかめた。


「しつけぇな」

「お願い。晶くんなかなか写真撮らせてくれないんだもん」

「……わかった」


 はあ、とため息を吐くと、嬉しそうに巧海が笑顔になる。

 言いだしたら聞かないのはもう身を持って実感しているのだ、何も言うまい。


「ただしお前も写れよ、1人は勘弁しろ」

「はーい」


 言いながらカメラに設定した巧海が携帯を2人の前に構える。

 撮るよ、と巧海の声を聞いて構えた刹那

 ―――頬に柔らかな感触がした。

 ぶわっと顔に熱が集まった瞬間にシャッターを押されて、部屋には晶の怒号がとんだ。










FIN.






晶くんなら隠し撮りすらさせてくれなさそうですが、まあスルーで。
晶くんの写真見てニマニマしたいです。
 

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