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□雑誌
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『雑誌』
巧海がふと気づくと、晶の読んでいるものが変わっていた。
いつも文庫本を読んでいる晶が珍しく目を向けているのはファッション雑誌。
巧海も名くらいは聞いたことのあるハイティーン誌だ。
「晶くん、それ買ったの?」
「は? なわけねーだろ。奈緒先輩に渡されたんだよ。もう読んだやつだからいらないんだと。たまには読んで勉強してみればって」
もしや晶もそういうものに興味が出たのかと思ったのだが違うようだ。
でも捨てずに読んでいるということは、まんざら興味が無いわけでもないのか、と思いつつ晶が座るベッドに移動する。
「僕も見ていい?」
横から顔を出すと、「ほら」と雑誌を渡され受け取る。
色んなモデルが色んな服を着ている誌面は、カラーが明るすぎてずっと見ていると疲れそうだが、モデルを晶に置き換えて見るのは中々楽しい。
たまには赤のギンガムチェックのスカートも良いな、と目に入ったモデルを見て思う。
黒のハイネックと合わせたら締まるし、晶なら着こなせそうだ。
「あ、晶くんこれは? つなぎの服可愛いよ」
「んー、トイレの時とかめんどそう。俺こういうラフなのがいい」
基本機能重視な晶が選ぶのはズボンやボーイッシュな服だ。
可愛い服も好きなクセに、と巧海は内心で揶揄した。
恥ずかしがって口には出さないが、買い物に行くと晶が可愛らしい服に見入っている姿を何度か見ている。
そんな晶に気づいた時は、その服を勧めて渋る晶を試着室に押し込め、しっくりきたら即購入だ。
もうそろそろクリスマスで洋服屋でもドレスやパーティー商品をよく見かける。
ドレスを着た晶というのも気になるなぁ、と想像してしまう。
「晶くん、また休日買い物行こうよ。この間あんまり良いの見つからなかったじゃない?」
「ん? 良いけど……お前疲れねえ?」
「晶くんがいれば平気だよ。疲れたら言うよ。そしたらお茶付き合ってくれる?」
「当たり前だろ。そしたらこないだテレビで見たとこ行くか? パフェとチーズケーキが人気の」
「ああ良いね、あの辺雑貨とかもあるし。アンティークも確かあったと思う」
「いいな。じゃあ決まり」
笑って約束してくれる晶が愛しくてたまらない。
君が隣にいてくれたら何だって楽しいに決まってる。
帰ったら一緒の布団にくるまって眠ろうか。
君は優しいから、笑って受け入れてくれるんだろうね。
とりあえず、この雑誌に載っていたパーティードレスは絶対着てもらおう。
FIN.
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