shortstory

□成長
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 意図がわからず言われるままに手を広げると、手首を持ち上げられて巧海の手のひらと合わされた。

 そこで晶はようやく意図が読めた。

「……おい」

「やっぱり、晶くんの手小さい」

 合わさった手のひらは、巧海のほうが大きい。

 巧海はまじまじと驚いたように合わせた手を見るが、晶はこめかみをピクピクとさせて巧海を睨みつける。

「バカにしてんのか、てめぇ!」

「え、いや違う違う! 晶くんの手見たら何となく……わーっ、ごめん、ごめんなさい! 悪気はないから!」

「あってたまるか!」

 キツくヘッドロックを掛けられ巧海は晶の腕を叩くが、それくらいのことでは晶はびくともしない。

 力はまだまだ晶が上だ。
 というか巧海が超せる日などおそらく来ないだろう。

「死ぬ死ぬ、本当に死ぬ!」

「アホか、死なない加減くらいしてるっつの」

「晶くん!」

「聞く耳もたねえ」

「明日プリン作るから!」

「食い物でつられるか! 酒つけろ!」

「無理だよ、僕ら未成年……いだだだっ」

 痛さに晶の腕をさらに叩くと、ふん、と鼻を鳴らして晶はようやく手を離した。

「まだまだ力はねぇな、鍛えろってんだ」

「けほっ、ひどい晶くん」

 不満げにねめつけてくる巧海を無視して、晶はテーブルをさっさと片付けた。

 布巾でテーブルを軽く拭いてから巧海をくるようにあごをしゃくる。

「何?」

「肘付けろ、腕相撲だ」

「腕相撲って……」

 何で、と訊こうとして巧海は口を噤んだ。

 これ以上晶の機嫌を損ねるのは遠慮したい。

 今の巧海には尋ねる権利も拒否する権利も無いのだ。

 言われるままに巧海はテーブルに肘を付けて、向き合った晶の手を握る。

 握った手はやはり小さく柔らかい。

 今まで当たり前の感覚すぎて気にしなかったが、自分の成長を感じる今では晶への異性としての意識は高まった。

「よし、良いぞ。入れられるだけ力入れろ」

「うん」

 頷いて巧海は握った右手に力を入れる……が。

「あれ?」

 ぐっとまた力を入れる。
 だが晶の腕はびくともしない。

 まるで一つの細い柱のようだ。

「ええ、全然動かないんだけど」

「ん、おしまい」

 今度は言うと同時に晶が軽く力を入れた。

 巧海の手の甲は簡単にテーブルに付いてしまった。

「……簡単すぎるなぁ」

「いや、ちゃんと力入ってるしいいぞ。毎日マッサージとか医者から言われたのやってるし、良くなってる」

「本当?」

 ああ、とへこんだ巧海に頷いてみせる。

 晶はふいっと横に向いてテーブルに頬杖をついた。

「……俺だって嬉しい。だから素直に喜ばせろよ」

「―――うん、ありがとう晶くん」

 拗ねさせるな、と言外に言われ巧海は堪えられず笑みをこぼした。

 本当にどこまで可愛い少女なんだろう。

 きっと巧海が思っているよりも晶は巧海の成長を喜んでいる。

 自分の成長がどんなに見えなくても、それでも喜びに満ちているのだ。

 悔しいと拗ねたりふて腐れて見えるのは晶の照れ隠しなのかもしれない。

「晶くん、明日放課後出かけようよ」

「あ? 何だよ急に」

「うん。なんとなく」

「別に良いけど……」

「じゃあ女の子の格好してね。スカート穿いて、髪も下ろさなきゃダメだよ。それでプリクラ撮ろう」

「待て! 行くのは良いけどスカートってっ……」

「ああ楽しみだなぁ」

「待てこら巧海!」

 聞く耳持たずにおかずを詰めたタッパーや器を持ちながら行ってしまう巧海に晶は追いすがる。

 巧海は小さな晶の手を、明日はずっと離さず繋いでいようと心に決め胸を弾ませた。


 小さな手のひら。

 大きな存在。


 過ぎていく日々を、叶うならずっと君の隣で見ていたい。


 ね、手を合わせていつまでも。










FIN.



終わり方がひどいですね〜。あははは。晶くん健康診断どうやって凌いできたんだろう、と考えたお話。巧海の成長が嬉しくも複雑な晶くんなのでした。
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