shortstory

□長い髪
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「僕も起きたの数分前だよ。顔先に洗うね」

「おう」

 トイレとバスタブが一緒になっている洗面所に巧海の姿が消えたことを確認して、晶は今の内に着替えようと服を取り出した。

「あ、晶くん!」

「なっ、何だよ!」

 脱ごうと服に手を掛けたところで巧海に呼ばれ、晶は慌てて捲った服を下ろす。

 ひょこりと巧海は洗面所から顔をだし、真剣な顔つきで、

「服、ちゃんとあっちの方着てね」

「……わかってるよ」

 巧海の指示に晶はため息と共に肩を落とした。

 やっぱ忘れてるわけねぇか……。

 あっち、と言われた服は所謂女性用で、晶が今までに着ていなかったスカートである。

 外国ならば問題ないだろうと舞衣が晶に持たせたものだ。

 国内でも風化学園の近くを離れれば女の姿でも問題ないと巧海たちは言うが、長年縁の無かった格好を誰かに見られる可能性を孕んだ中で出来るわけもなく、ならばアメリカで慣れなさい、と言われた。

 持たされた服は一応控え目のデザインだが、ピンクのフード付きシャツとデニムのミニスカートという組み合わせは、どう見ても女の子の服だ。

 晶もスカートが嫌、というわけではない。
 ないが躊躇う。

 ―――似合うのか、コレ。

 ベッドの上で胡座をかいて目の前に服を掲げ持ってみる。

 思わず顔をしかめた。
 いくら試しても、これを着た自分が想像できない。

「晶くん? 着替えた?」

「待て! まだだ!」

「はーい」

 いつまでもこうしている訳にはいかない。晶は意を決して袖に腕を通した。

 数分してようやく着替えた晶に洗面所から出ることを許可された巧海は、目を丸くして晶を見た。

 それなりに想像はしていたがこれは、


 ―――どこからどうみても女の子だ。

「……スカート、初めて見た」

「当たり前だ、穿いたことねえからな」

 顔をうっすら朱に染めて、照れ隠しだろう、晶はそっぽを向いている。

「似合ってるよ、晶くん」

「……そうか」

 笑顔で言えば、晶は少し視線を寄越して安堵の色を見せた。

「ねえ、髪ほどいてみない?」

「はあ?」

 巧海の提案に晶は怪訝に眉を寄せる。

 下ろすと邪魔だから嫌だ、と言い張る晶に巧海は「なら編み込みは?」と提案し直しなんとか頷かせた。

 ベッドに晶を座らせ、巧海は深緑の長い髪を縛っている紐を解いた。

 サラリと髪が広がる。
 綺麗だ、と素直に思って見とれた。

 一房手に取ってみると、細い毛がサラリと落ちる。

「髪綺麗だね」

「そうか?」

 うん、と頷いて巧海は髪を三つの束に分け器用に編み込んでいく。

「三つ編みとかやったことねえ」

「教えてあげるから覚えてよ」

「ん。でもムズそう」

「練習、練習」

 女の子は大体人形遊びなどで髪の結い方を覚えたりするが、晶にその経験があるはずもない。

 巧海は舞衣から色々吸収しているし、元が器用なので女性関係のことは下手したら晶より分かる。

 他愛のない、時にはくだらない話をしている内に晶の髪には綺麗な三つ編みが出来上がっていた。

「はい、いいよ」

「へぇ、すげえな」

 感心したようにまじまじと晶は編み込まれた自分の髪を見やる。

「晶くん手先器用じゃない。すぐにできるよ」

「努力する」

「うん」

 微笑んだ巧海に晶は何となく照れくさくなって視線を逸らした。

「帰ったら、他にも色々教えろよ」

「―――うん」

 それは昨夜の約束事の続き。
 帰ったら、その未来を確かなものにするのだ、自分は。

 そっと晶の手に自分の右手を重ねる。
 何も言わず晶は握ってくれた。

 少し赤くなって、照れくさそうに笑う晶が愛おしい。


 もう諦めはしない。

 君と生きるよ、

 この温もりを抱きしめていたいから―――。










FIN.




男装するならばっさり髪切っててもおかしくないよな〜と思って書いたお話。ほんっとに公式で髪を下ろした晶くんが見られなかったことが悲しい…!ぜったいかわいいのに!
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