shortstory

□お昼寝
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 実をいうと巧海の携帯には幾つかの晶の寝顔があったりする。

 起きている晶を撮るのは至難の業で、寝ている時が一番チャンスなのだ。

 勿論晶には内緒である。
 バレた日には雷が落ちるのは目に見えている。

 下手に怒らせて触れ合い禁止令などが出たら溜まったものじゃない。

 ピクリと晶の上で寝ていた猫が起きた。

 にゃ〜。

「しー」

 小さく鳴いた猫に一差し指を口にあて静かにするようジェスチャーするが、果たして猫にそれは通じるのか。

 猫は身軽に晶の上から飛び退き、巧海の元へすり寄ってきた。

「はいはい、今あげるから」

 巧海は笑って先ほど部屋から持ってきた袋開けてを紙皿に入れた。

 お腹がよほど空いていたらしい猫はガツガツと勢いよく食らいつく。

 この場所にこの猫が来ることを知ったのは1ヶ月ほど前で、巧海は暇があるときなどこの時間に餌を持参してくるのだ。

 猫がいる時間は丁度晶が部活に励んでるときで、このことは巧海しか知らなかった。

 しかし何故晶がいるのか。
 部活をサボるなどはないだろう。

「教えてくれれば良かったのに……」

 部活に出なくてよくなったのなら自分に言ってほしい。

そしたら少しでも多く君といられるのに。

 晶が起きないように細心の注意をはらってそばに寄る。

 そっと頬に指で触れた。

 柔らかな肌は白く綺麗で、これで手入れなどをしていないのだから不思議だ。

 深緑の長い髪は草の上で草と一緒に風になびく。

 自然と口が緩んだ。
 こんな穏やかな午後を幸せと呼ぶのか。

「……み」

「晶くん?」

 起きたかと思い名前を呼ぶと、少しだけ身じろきしただけだ。
 顔を寄せて見ればまた晶の口が開いた。

「―――」

 次は、確かに聞き取れた。
 巧海は笑って紅い小さな唇に己のそれを寄せた。

 にゃー。

 もう少しで触れるという瞬間に鳴き声が入り思わず巧海は動きを止め、声に反応した晶がそっと目を開ける。

「あ、起きちゃった?」

「―――なっ、何やってんだてめえは!!」

 至近距離にある巧海の顔にすぐさま目を覚ました晶は、叫ぶような声と共にガバッと起き上がった。

 怒鳴る晶に巧海は飄々とした笑みで「キス」とだけ答えた。

「お前はなんでそういう―――!」

「晶くんが悪いんだよ」

「何が!!」

「可愛い寝顔で僕の名前呼んだから。あれで何もしないとか無理だよ」

「呼んでねえ!」

「呼んだの」

 そう、確かにあの時晶は声にした。

 ―――たくみ。

「それに目覚めのキスでお姫様が起きる―――て方がいいじゃない?」

「どこがっ! 俺は姫じゃねえっ」

「まあまあ、いいじゃない」

 しばらく晶はぶつぶつ言っていたが、収まったところで触れるだけのキスをした。

「あー……、でもそういやお前夢に出てきたわ」

「どんな夢?」

 猫を撫でながら晶が思い出したようにぽつりと言った。

「巧海がケーキ作ってた。んで俺が食った」

「ケーキ食べたいの?」

「いや夢だから。……でもなんか食いたくなってきたな」

 考えたら少し食べたい気がして軽く首をひねった。

「じゃあ作ろっか」

「は? 今から?」

「うん」

 笑顔で頷く巧海に晶はマジで、と呆れた顔をした。

「もう時間も遅いし夕飯あるだろ」

「あ、そっか」

 言われて気づいた巧海に苦笑した。

 全く変に抜けているのだ、この男は。

「明日、作ろうぜ。休日だし材料買いに行ってさ」

「うん!」

 晶が提案すると、巧海は嬉しそうな笑顔で頷いた。


 ―――そして翌日、晶の夢は正夢になった。










FIN.




お昼寝をしているほのぼのな晶くんが書きたくて。猫を絡ませたのはわたしが猫好きだからです(笑)ちなみに巧海の行為はいわゆる「寝込みを襲う」というやつです。むふふ。
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