shortstory

□お昼寝
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 気候ののどかな午後。
 緑の葉が風に揺れ木陰が踊る。

 木が茂る草原に晶は寝そべっていた。
 草原といっても風化学園の敷地内。

 部活が急遽休みになり寮へ戻ろうとしたが、気持ちの良い暖かさに眠気が襲い、人気のない昼寝場所に寄ったのだ。

 緩やかな風が髪を撫でる。
瞼が下りるまま目を閉じた。

 刹那。

 ―――ガサッ

「誰だ!」

 反射的にそう叫んで一瞬で起き上がり構える。

 が、次の瞬間気が抜けた。

 にゃ〜。

「……猫かよ」

 前にもこんなのやったぞ、俺。
 あの時は巧海に笑われたっけ。

 バツ悪く顔をしかめ、ため息を一つこぼした。
 だが今回は1人だったことに安堵して再び寝転ぶ。

 けれどその昼寝を阻止するよう「にゃ〜」と猫が鳴いた。

「あ?」

 どっかへ行くだろうと思った猫は晶の方へ寄ってきて、晶の髪に鼻を寄せて匂いをかいでいる。

 どうやら人に慣れているらしい。
 誰か風化の生徒が餌付けでもしているのだろう。

 猫はいつの間にか手の方へ寄って鼻をつついてくる。

「俺食いもん持ってねえよ。いつもくれる奴に言ってくれ」

 晶の声にピクリと反応して猫は手から離れた。

 もうどこかへ行くかと思えば腹に何かが乗った。

「……マジで」

 まさかと思い下を覗くと猫が我が物顔でのっている。

 欠伸をして伸び、そして毛繕いを終え夢見の準備に入る。

「―――て、おい。何寝てんだお前」

 抗議も虚しく猫はすやすやと寝息をたてはじめた。
 おやすみ3秒とはこの事か。

 これを起こすのはさすがに憚れる。
 晶は諦めて力を抜いた。

 目を瞑ると視覚がなくなり感覚が研ぎ澄まされる。

 鳥の声が木の上から聞こえた。

 ―――二羽、雀だな。

 一羽が飛んだのがわかる。
 続いてもう一羽。

 羽の音が遠ざかっていく。

 腹部に感じる温もりが思ったより心地良い。

 1人でいることは好きだが、こうして何かがいるのも意外と良いものだ。

 そんなことをぼんやりと思い、今度は自然と眠りにつけた。



***



「よし、支度はこんなところかな」

 乱切りされた人参に櫛切りの玉ねぎ、大きめに切ったじゃが芋、牛肉にいんげん―――肉じゃがの材料である。

 後は煮込んで終わりだ。

 小松菜のおひたしは冷蔵庫で冷やしてるし、味噌汁はねぎとワカメと豆腐ですぐにできるから問題はなし、完璧な晩ご飯である。

 自分の仕事に満足して巧海は時計を見た。
針は16時半をまわっている。

 晶はまだ部活だろうか、などと考え戸棚から箱を取り出した。

 箱の中には小包装された小さな袋がいくつか入っていて、巧海は一つ袋を取り出し箱を戻した。

「今日もいるかな」

 小さく1人ごちに呟き部屋を出た。

 人気の無い草原は晶が教えてくれたお昼寝スポットで、巧海も暇だったり静かになりたい時などに使っている。

 晶とお弁当を食べたりなんかもする定番の場所だ。

 数分歩いて目的地に着いたその瞬間、まず巧海は固まった。

 目に映った光景にぱちくりと瞬き。

 ―――携帯持ってくれば良かったなぁ。

 一番に思ったのはそんなことだった。

 目の前にいるのは静かに寝息をたてている晶と、その晶の上で丸くなって寝ている猫。

 こんなシャッターチャンスはそうあったもんじゃない。
 ひどく後悔しながら巧海はあどけない寝顔を眺めた。



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