shortstory
□まぶしい
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*時間軸/アニメ10話以降
夏休みが終わり、授業が始まった。
休みの間に緩んだ生活リズムを少しずつ取り戻し、再び学校中心の生活に体が馴染んだ頃。
まだまだ暑い気温のなか、体育館ではバスケが行われていた。
シューズと床の擦れる高い音と、ドリブルの音が忙しいリズムを刻む。
キャー!、と女子たちの黄色い歓声が上がった直後、ボールが綺麗な弧を描いてリングに入る。
地面から浮いていた足が、音静かに降り立つ。
空中に舞うようにして、深緑の髪が靡いた。
「晶くんかっこいいー! バスケ部もいるのにすごぉい!」
「うんうん、動きとかすごい綺麗だよね」
となりで話す女子の会話を聞いて、確かにと巧海も内心で頷いた。
見事なシュートを披露した晶はチームメイトたちに頭やら背中やらをバシバシ叩かれている。
仲間たちは褒めているつもりだろうが、なかなかに痛そうだ。
あ、殴った。
思った矢先にキレた晶がチームメイトたちを蹴散らした。
そんな晶の姿もツボに入ったらしい女子たちがまたもや「かっこいい!」と盛り上がる。
うん、たしかに晶くんはかっこいいよね。と、またもや内心で頷く。
小柄な体躯はハンデを感じさせることはなく、むしろそれを生かしたプレーで晶は点を稼いでいく。
俊敏な動きに他のプレイヤーは翻弄されるばかりだ。
……でも、うーん。
巧海は少しだけ小首を傾げて、体育座りをしていた足に顎を乗せた。
コートにいる男子たちは晶を止めるのに必死だが、晶はディフェンスをヒョイと抜いてまたリングにボールを放つ。そして入った。
汗もかいて息切れもしている、が。
たぶん、本気は出してない……よねぇ。
晶の身体能力は一般の範疇から大きく飛び抜けている。
何せ秘密の忍者さんなのだ。
かっこいい。
まるでテレビからヒーローが飛び出してきたような高揚感。
晶はそんな巧海を鬱陶しそうにするが、本気で拒絶を受けたことがない巧海は嫌がる晶に気づかないフリをしている。
当たり前だ、こんなにワクワクすることは他にない。
ずっと狭くて真っ白な病院という籠で過ごしてきた巧海にとって、風化学園に来てからの毎日は刺激的だ。
……刺激的過ぎるようなことも多々あるが。
ピー、と練習試合終了の笛がなる。
体育の授業だというのに、晶1人が入っただけで随分と濃い一試合になった。
次の組と代わり、待機している生徒たちの列へと晶たちが向かってくる。
お疲れさま、と声をかけようとした巧海だったが、思わず口を噤んだ。
険しい顔をした晶が、大股で巧海に向かって歩いてきたからである。
あっという間に体育館の真ん中から端までやって来た晶は、巧海の腕を掴んで審判をしていた先生に声をかけた。
「すみません、鴇羽の顔色が悪いんで保健室連れて行きます」
巧海の身体が弱いことはみんな知っていたため、あっさりと許可がおりる。
大丈夫?、などとクラスメイトたちに声をかけられながら、晶にささえられ―――否、引っ張られて体育館を出た。
「あの、晶くん……いつから僕の体調のこと気づいてたの?」
「試合してる途中。お前、具合悪くなったらすぐに言えよな」
呆れた溜め息混じりの声に、ごめんと苦笑する。
「晶くんの試合、最後まで見たいなぁと思って。終わったらちゃんと保健室行くつもりで……」
「嘘つけ。お前はぶっ倒れるまで我慢したよ、絶対」
「えー、絶対は言い過ぎじゃない?」
「いーや、絶対だ」
そういう奴だよ、お前は。
こちらを振り向かずに前だけを見る晶が、何てことないような口調で呟く。
間違っていないから、巧海は「うん」と呟きで肯定した。
「晶くん」
「ん?」
振り返った晶が、陽に照らされて眩しい。
眩む目を細めて、ありがとうと巧海は笑った。
FIN.
まだ巧海の晶への気持ちが憧れのときが書きたくて。たぶん好きよりも憧憬の方が強かったんじゃないかなー、って思ってます。