shortstory

□変わらぬ2人に愛の時間を
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「本当に晶くんって髪綺麗だよね。ちゃんとリンスとかしてるの?」

「最近はな。身だしなみとか、ちゃんと気をつかえって父上にも言われてるし」

「へえ」

「お前、髪触るの好きだよな」



 苦笑する晶だが触るなとは言われないので、巧海は触れる手を離さず指通りの気持ち良さを堪能した。

 中学生のときに既に腰にあった長髪は、変わらず同じ長さで保たれている。

 毛先だけをこまめに自分で切っているのだと前に聞いた。



「枝毛一つないし、女の子に羨ましがられるんじゃない?」

「あー…。何か特別なことしてるのかって聞かれる。女子ってこだわりあるよな」

「そういう晶くんも女の子だよ」

「さすがに女の子って言われる年齢でもないけどな」



 いい加減やめろ、と手にすくっていた髪を取り上げられ、ちぇ、と口を尖らせる。



「ねえ、晶くん」

「何だよ」

「今日泊まっていってくれる?」

「そのつもりだけど。さすがにこの時間じゃ帰るのめんどくせぇし」



 当たり前のように言う晶に嬉しさと同時に不安がよぎる。

 純粋無垢な彼女に巧海が何を求めているのかわかっているのだろうか。

 直球に晶に確認を取ろうかとも思ったが、ここで帰られたら立ち直れる自信はない。

 かと言って自分勝手に晶を傷つけるような真似もしたくないし有り得ない。

 どうしたものかと悩んでいると、不意に晶の顔が目の前に迫った。それはもう息づかいのわかる距離に。



「あ、晶く」

「どうした? 具合でも悪いか?」

「えっ、なんで」

「いや、難しい顔っていうか、変な顔してるから」

「……違うよ、大丈夫」



 風華学園にいたときから何一つ変わらない、晶の心配する表情に気持ちが和らぐ。

 微笑めばホッと安堵の息を落とした。



「じゃあ、何で変な顔してんだよ」

「んー…。晶くんが帰っちゃったりしないかなぁって」

「はあ?」

「こういうこと」

「は、」



 目の前に迫っていた晶の肩を軽く押すと、何の構えもなかった彼女は驚くほど簡単に床に倒れた。

 キョトンとした晶の顔が、徐々に赤く染まる。



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