shortstory

□身長の差
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***



「なっつかしぃなー」

「本当、すっかり忘れてた」


 2人が身をかがめて見る柱には、幼い時に美津子が付けた2本の黒線。


「こっちがヒカルでこっちが私……ちっちゃいの」


 ふふ、と懐かしむように笑いながらそっと指でなぞる。


「どーだ、ちゃんとあかり超したぞ」

「はいはい、負けましたよーだ」


 べっ、と小さく舌を出してやる。


「また印付けよっか、身長の」

「付けんの?」


 頷くやいなや台所にいる美津子に了解を得に声をかける。

 あっさりと了承した美津子にお礼を言ってマーカーを借りた。


「あー……私届かないや。椅子持ってくる」


 あかりはヒカルの身長を印そうと背伸びをするが、どうやっても届かない。

 あきらめて椅子を取りに行こうとしてヒカルに腕を掴まれた。


「ヒカル?」

「あー……ごめん、もっかい今のやって?」

「今の……って背伸び?」


 頷くヒカルに言われたまま、再び向かい合い爪先を上げ―――少しだけ屈んだヒカルの唇が触れた。


「ちょっと!」

「いやだって我慢できなくてさ。今のちょっとたまんないんだよ、たまにやってよ」

「バカっ!」

 顔を真っ赤にして椅子を取りにリビングへ走る。
 後ろからヒカルの笑い声が聞こえたが―――無視よ無視!

 キスなんて数えられない程しているし、肌だって重ねた。

 それでも不意打ちだったり人前だったりすると真っ赤になるのは変わらない。

 ていうか人前は当たり前よね……?

 触り癖と言っていいほどヒカルはどこでもあかりにふれるのだから、あかりとしては嬉しいが恥ずかしくてたまらない。

 火照った顔を冷まし椅子を持ってヒカルの元へ戻る。


「じゃあヒカル頭付けてね」

「へーい」

「ここかなぁ……、よしいいよ」

「じゃあ次あかりな」


 マーカーを渡し選手交代である。

 椅子が必要だったあかりと反対に、ヒカルは数秒で印を付けた。


「すごーい、あの頃と何センチ違う?」

「わかんねえ。俺目算とか無理」

「誰もあんたにそんなの期待しないから心配なさんな」

「お姉ちゃん」


 げっ、とヒカルが眉を寄せてあかりの後ろに回る。

 どうもあかりの姉とヒカルは相性が悪いらしい。


「あら何その態度。ほら、メジャー」

「わあ、ありがとう」


 有り難く姉からメジャーを受け取って柱に当てる。


「ふーん、2人ともこんなにちっちゃかったんだね」

「うん、ヒカルは50センチは差あるよー。私は34センチくらい?」

「お前はすぐ止まったもんな、成長期」

「男の子と一緒にしないでくださーい」

「あら何言ってんのよ、成長したじゃない」


 印の前に並んで屈む2人の間に割り込んであかりの方へ手を伸ばす。

 ふにっ。


「こことか」

「お姉ちゃんっ!!」

「まあ確かに」

「ヒカルーっ!!」


 ニヤリ顔で言う姉の言葉に頷くヒカルを容赦なく叩く。


「お父さんたちに聞かれたどうするのよ! 気まずいじゃない!!」

「大丈夫よー。祝い酒だーってしこたま飲んでぶっ倒れてるから」

「何だ良かった……」

「ウチの親父サマはやけ酒だろうけど……まあ、感慨深いもんよね」

「えへへ、そうだね」


 じっと見る柱の印。

 あの頃は想像もしなかった今日という日。


「ヒカル、あかりのこと頼んだわよ」

「おう、任せといて」

「はぁ、これが義理の弟になるなんてね。世の中って不思議」

「まあよろしく、お義姉サン」


 うっすら顔を染めて2人のやりとりを見るあかりの心境は少しくすぐったい。

 ヒカルはそんなあかりの左手を取り、光る銀の指輪に口づける。


「―――これに誓う、幸せにするから」

「……うん」


 あかりの姉は、ピューと口笛を吹いてちゃっかりと携帯で写真を撮った。


「まるで絵本ってか」

「へへ。こういうの好きだろ、あかり」

「さすがにちょっと恥ずかしいわよ。―――でも嬉しい、ありがとうヒカル」


 微笑むあかりにヒカルは顔を片手で覆った。


「ヒカル? ……て何っ!?」


 ふわりと両足が浮いて視界が高くなる。

 ヒカルに抱き上げられたと気づいてあかりはヒカルにしがみついた。とにかく高さに慄く。


「た、高い! 怖い!」

「父さん達寝てるんだよな?」

「……寝てるわよ」


 あかりの姉へ顔を向け訊くと、姉は呆れたようにため息をついてまた写真を撮る。

 まったく妹のお姫様だっこ姿が撮れるとは思わなんだ。


「じゃ、あとよろしくお願いします。お義姉サン」

 ぺこりと頭を下げてあかりを抱えたまま二階の自分の部屋へと向かう。

 騒ぐあかりは当然無視だ。

 パタリとドアが閉まった。


「―――ま、いっか」


 ピピッと携帯を操作し先ほどの写メのタイトルを編集する。


「次に印を付けるのは、2人の子供かしらね」


 おばさんとは呼ばせないわよ、と心に決めて編集したタイトルを保存した。

 "可愛い妹の結婚記念日"


「おめでと、あかり」



 ―――少し寂しい気持ちを残して、可愛い妹の幸せを祝した。










FIN.



ヒカあかが入籍した夜の話。だいぶ前に書いて放ったらかしにしていたもので、所々修正を入れました〜。
久しぶりの更新がお古ってどうなんだって感じですよね…すみません;;そろそろSS書きたいな!か、書けるかな!←
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