shortstory

□幸せを君の隣で
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「巧海、巧海っ……っめん、守れなくてごめ、ん。俺はお前を……っ」

「謝ることじゃないよ。晶くんが悪いんじゃないんだから」

「それでも、俺は守れなかった……!」



 悲痛に呻く小さな否定が、巧海の胸を締め付ける。

 自分が消えたあと、この少女はどれほどの涙をながしたのだろうか。

 それを思うと苦しくて堪らなくなった。

 巧海の命に意味を与えてくれた少女を1人残すことが、こんなにも罪深いことだと思わなかった。



「……ごめんね、晶くん。僕は君に想われて消えることが嬉しかったよ」

「ふざ、けんなっ……、俺は全然嬉しくねえよ!」

「うん。だからごめん、晶くん。……また会えて良かった」



 顔を両手で押さえて泣きじゃくる晶に、両腕を伸ばす。

 触れることを一瞬躊躇って、そっと壊れ物を扱うように包み込んだ。

 消える前に嗅いだ、優しい香りがする。



「っ、……ッく、ひっく」

「ありがとう、晶くん。好きになってくれて、ありがとう」



 声を押し殺して泣く彼女が痛々しい。


 それでも巧海は、泣きたいくらいに喜びを感じている。

 生きていることがこんなにも嬉しいだなんて、以前の巧海は知らなかった。

 優しくて綺麗な涙を流して、自分を想ってくれる人がいる幸せが胸に痛いくらいに染みる。


 曖昧な感情が、簡単に固まって作られる。

 きっと、小さなこの気持ちが大きくなるのなんてすぐだ。

 根拠もなく巧海は確信していた。


 ―――おかえり、巧海。


 そう嗚咽を含みながら囁かれた、晶の濡れた声が耳朶を打つ。


 ずっとずっと、長い間小さな彼女が抱えていた大きなこと。

 1人で悩んで苦しんで、それでも弱音を吐かずに戦っていた。

 晶は強い。だけど弱くないわけではないのだ。


 失う恐怖、頼る躊躇い、弱い自分を見つめられない脆さ。

 晶にもある。


 どうか、これ以上彼女が傷つきませんように。

 出来ることなら、晶のそばでそれを叶えたい。

 彼女を守ることが、傷つけないでそばにいることが、出来るかもしれない未来。

 それを心から望んでいる自分がとても好きになれそうな気がする。




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