shortstory

□幸せを君の隣で
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「あの晶くん、状況についていけないんだけど……」

「俺もそんなにわかってねえよ。とにかくお前は死んでなくて、媛星が消えようとしているのは確かだ。俺はこの馬鹿げた祀りを終わらせるために行く。―――お前は寝てろ」



 晶に引っ張られて客間であろう部屋に放り込まれる。

 颯爽と行ってしまった晶を呼び止める暇もなく、巧海は呆然と座り込んだ。


 とにかくこれは夢でもなければ幻でもないらしい。


 あまりにも再会の余韻を感じさせない晶の態度が、余計に巧海に現実感を与えてくれない。

 蔵を出てから一度も合わされなかった視線。

 晶が巧海に対して罪悪感を抱いているのはすぐにわかった。同時に晶自身が己を酷く責めていることも。


 じっとしていることがもどかしくなって立ち上がろうとした巧海の前に、いつからいたのか着物を着た厳格な男が立っていた。

 突然のことに声をあげて床に手をつく。

 晶の言っていた世話役かとも思ったが、肌に伝わる威圧感がそれを否定している。



「君が、晶の想い人かね」



 耳の奥にまで響く低く太い声音。

 誰なのか、その問でわかった。



「―――はい。鴇羽巧海と言います」



 肯定で返すことに躊躇いはなかった。

 晶が自分を一番に想ってくれたから、巧海は消えたのだ。

 そのことを否定する気は微塵も現れない。



「そうか。私は尾久崎家当主―――晶の父です」



 容姿は晶とまるで似ていないが、凛とした空気は同じだ。



「あの、晶くんは」

「今は別室で支度をしている。終わればすぐに星へ向かうよ」

「そうですか」



 圧倒的な存在感を前にして、巧海の身体が震えることはなかった。

 ただ次元の違う、晶に出会う前の自分が対することのなかった種類の人間だとはわかる。



「―――晶は、この祀りが終わればただの女に戻るだろう」



 唐突な切り出しに巧海は息を飲んだ。

 ただの女。

 晶が媛の運命を持ったがために強いられた、嘘偽りが消えたときに解放される晶の本当。

 表情ひとつ変えない晶の父は、巧海を見据えたまま再び問いをかけた。



「君は、晶をどう想っているかね」



 迷う間もなく、巧海は自分でも意外なほど冷静で穏やかな気持ちで答えた。




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