shortstory

□それもまたキミ。
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 見間違えるはずはないのに、一瞬自分の目を疑いそうになってまうほど、その姿に不自然な箇所がなかった。


 肩幅の広い学ラン姿は影もなく紺のスカートを揺らしてブロック塀に着地した女の子―――晶だ。


 再び足を踏み込んだ晶に巧海は慌てて声を上げた。


「晶くん!」

「―――げっ、巧海」


 嫌そうに苦った顔をされ、巧海もムッと眉ゆ寄せた。


「お前なんでここに、」

「探しに来たんだよ。お姉ちゃんから連絡があって」

「あー…、お前姉貴どうにかしろよ。こんな格好させられた」

「でも似合ってるよ?」

「姉弟揃って同じこと言うんじゃねえ!」

「本当のことだよ。一瞬見とれたくらいだ」



 微笑めば気恥ずかしそうに顔が横に向けられる。



「やめろ。俺は早く着替えてえんだ、どうにかしろ」

「なんか勿体ない……もうちょっとだ」

「却下!」


 最後まで言わせてもくれない剣幕に、わかっていたが残念だと肩を下げる。

 わざとらしく溜め息を吐けば「何で俺が溜め息吐かれなきゃならないんだ!」と怒鳴られた。



「とりあえず降りたら? 誰もいないよ」


 左右確認だけをして身軽に足を地に降ろす。

 むくれているのは照れているせいか、見られたことが不本意なのか。



「うん。本当によく似合ってる」

「またお前は……。その誑し発言どうにかしろよ、無理して褒めなくても変なことくらいわかってるよ」


 後ろ向きな発言に眉根を寄せる。

 無理してとは心外だ。



「た……」



 巧海の怒った空気に気づいた晶が、逸らしていた目をこちらに向けるのを目の端に見る。



 左手をとって指を絡めれば、晶が戸惑った気配で息を詰めた。

 逃がさないように間合いを詰めて塀に晶を追い込む。


 揺れる瞳を見つめれば晶の頬が朱を帯びた。

 声もなく、絡まった指と手のひらだけが汗ばむ。



「! おい、たく―――」

「黙って」



 人の来る気配に身じろぐ晶を制して、小さな彼女を隠すように覆い被さる。


 後ろ背に一定のリズムで歩いていた足音が、一瞬止まって足早に去っていく。

 たぶん端から見れば自分たちは道中で戯れている恋人―――考えるよりさきに体が動いた。



「た……っ」


 晶の小さな声を飲み込むかのように口を塞ぐ。

 固く結ばれた口を舌で割って侵入し、口腔内をまさぐる。


 外のせいかいつも以上に声を必死に堪える晶を、せき立てるように舌を激しくさせた。

 息を詰めて真っ赤な頬と潤む瞳で抗議する彼女が可愛くて意地悪をしたくなった。


 腰に回していた左手を浮かせて指を肩甲骨に向かって滑らせる。



「ん……ッ、ふっ……ぁ!」


 ようやく聴こえた声に―――理性が揺れた。

 ストッパーが外れたように強く舌を吸い上げると、また息と潜めるような声が漏れる。


 調子に乗って続けると―――頭に衝撃が走った。



「っい、いたい」

「―――っのバカ! 調子のってんじゃねぇっ、どこだと思ってんだ!」

「すみません……」



 遠慮なしに降ってきた拳と罵声に巧海は頭をさすった。

 たんこぶにならないことを祈ろう。


 肩で息をする晶に手を合わせて頭をさげる。



「ごめんなさい。調子に乗りました」

「……反省してるって顔じゃねえだろ」


 険しい顔で睨まれて苦笑が漏れる。

 反省していないわけではないのだが、それ以上に嬉しいのだ。


「なんかさ、放課後デートしてるみたいじゃない?」

「はあ?」



 呆れた顔でねめつけられるが、巧海はそれすらも受け止めて晶の両手を握った。

 緩く、優しく、触れるように。

 いつもとは違う、ガラスを扱うような巧海の手がやけになまめかしい。



「こうして女の子の制服着るなんてさ、なかなかできないでしょ。新鮮だしちょっと嬉しいなって」

「……女の方が良いのか」


 そう言った晶の表情を見て、巧海は目を瞬いて緩まっていた頬を締めた。


 ふてくされているのなら良かったが、下を俯いた彼女の顔は暗い。

 ちょんと晶の鼻先をつつけば、こちらを窺うよう伏せられた目が上がる。



「なに見当違いなこと言ってるの。どっちが良いじゃないよ、晶くんだから良いの」

「お……っ、まえは、また」



 クサい台詞を、と苦る晶が斜め下を向いた。

 染まった頬に指で触れて、すぐに離して手を繋ぐ。


 今度は離さないようにしっかりと。



「さ、帰ろっか」

「いや、とりあえずこの格好をどうにかしねえと」

「ああ。それについては僕から提案があるんだけど」



 片眉を下げて首を傾げる彼女に、巧海はにっこりと微笑んだ。




 ―――翌日、長い深緑の髪をなびかせ歩いていた少女が、中等部でちょっとした話題になったのは余談である。










FIN.




晶くんのセーラー服姿!!超絶かわいい!!ふへへへ
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