shortstory

□勘違い
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 駅近の本屋に用があるという雪菜が一緒に車を降りて、先生は寒いからと車で待機となった。

 先生にお礼を言ってから雪菜と歩き出す。

「あかりさんとは待ち合わせしてるんですか?」

「ああ、駅の改札辺りで。遅めに時間言っといたからちょうど良いかな」

 噂をすればなんとやら。改札に近づくとすぐにあかりを見つけた。

 それじゃあ、と別れを告げようと雪菜の方を向こうとした刹那、首に腕が絡められて下に引っ張られた。

 口が付くか付かないかギリギリのラインで止まった腕を慌てて剥がす。

「っ、いきなり何……」

「悔しいから。ちょっと意地悪しちゃいました」

 誰に、と聞くまでもなくヒカルは“意地悪”をした相手がいたであろう後ろを慌てて振り返る。

 やはりそこには呆然として立つあかりの姿。

「あ、あかり」

「……か」

 キッと涙目で睨むあかりにギクリと肝が冷えた。

「ヒカルのばかあぁぁっ!!」

 踵を返して脱兎のごとく駆け出したあかりに呆然としていると、クスクスと笑う雪菜の声が耳に入った。

「追いかけなくていいんですか?」

「……っ追いかけるに決まってんだろ!」

 無遠慮に好奇の目を向けてくる人々を無視してあかりが駆けた方へ走る。

「良いクリスマスを。進藤先生」

 呟かれた切ない声は、当然ヒカルには聞こえなかった。



***



 そして冒頭。

 互いに息も切れて、空は白い雲に覆われている。

 イルミネーションも綺麗にその存在を主張しだした。

「……っは、あかりっ!」

「や……っ!」

 ようやく捕まえた手を引いて人のいない裏手へ出る。

 いやいやと暴れるあかりを力強く抱きしめた。

「も、やだぁ……離してよぉ」

「嫌だ。ぜってー離さねえ」

 腕の中で力無く泣きじゃくるあかりを更にぎゅうっと抱きしめる。

「さっきの誤解だから。あの子は今日指導碁頼まれた先生のお孫さん」

「……じゃ、なんで2人で歩いてたのよぉ……」

 ぐしぐしと涙をコートに付けるあかりの頭をぽんぽんと軽く叩く。

「駅近の本屋に用があるって付いて来た。駅までは先生に車で送ってもらったから、2人だったのはホントに数分だよ」

「なんで、キス」

「してない。なんか悪戯みたいな感じだったから」

「……あの子、ヒカルのこと好きだったんじゃない」

「まさか。会ったの今日が初めてだぜ? あり得ないって」


 大体年も離れてるし、中3なんて悪戯を好む時期だろう。

 からかわれただけ、と言い張るヒカルにあかりは釈然としないようだったが、しばらくすれば落ち着いたようで背中に腕が回った。

「……今日、すごい楽しみにしてた」

「俺もしてた」

「なのにヒカルは女の子といたんだね」

「……しょうがねえだろ。お世話になってる人だし断るわけにいかなかったんだから」

 わかってるもん、と顔をうずめて腕に力が入る。

「でも嫌なんだもん。そんな物分かりよくなれないもん」


 ―――また、コイツは。


 無自覚なあかりの台詞に、ぎゅうっと力を込めて抱きしめる。

「ひ、ヒカル。苦しいんだけど……」

「知るか。お前が悪い」

「はい!? なんで私が悪いのよ! 寒い中ずっと待ってたのに―――」

 なんの前触れもなくうるさい口を塞ぐ。

 強張った体を無視して軽く唇を噛めば、あっさりと舌の侵入を許す。

 冷たい唇も深くなるにつれ温くなる。

 力の抜けた体を支え唇を離せば、甘い吐息がこぼれた。

「わかれよ、可愛いこと言うお前が悪い」

 耳もとで囁けば、びくりと肩が跳ね、少ししてから「ばか」とあかりの呟きがもれた。










FIN.




そりゃ寒い中待ってて、待ち人来るなり余所の女の子とちゅーしてる場面見たら泣くわ。み、未遂でよかったねヒカル(笑)いやー、雪菜は書いてて楽しかった!引っ掻き回してくれてありがとう!みたいな(笑)
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