shortstory
□勘違い
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「はい。囲碁の経験は……」
「小さい頃はやってたんですけど。中学に上がってからは中々打つ時間がなくて」
「そっか。じゃあお願いします」
「お願いします」
一度打ってみると、さすが祖父が碁打ちなだけあって巧い。
石を持つのは久しぶりだと言っていたが、確実にあかりよりレベルは上だ。
元々がどれほどだったのかわからないので、腕がどれくらい落ちたのかはわからないが本人が言うほど酷くはない。
「あー、ここは失敗だったなぁ。ここはこっちですよね」
「うん。もしくはこう繋ぐっていうのも有り」
「そっか! やっぱりすごいですね、進藤先生」
向けられる尊敬の眼差しがこそばゆくて、曖昧に笑いながら頬を掻く。
「でも雪菜ちゃん飲み込み早いから驚いた。失敗したとこ次は巧くやるし」
「進藤先生の教え方が良いんですよ。彼女さんには教えたりしないんですか?」
「教えるけど、雪菜ちゃんより下手だし飲み込み悪いよ。いつも惜しいとこで凡ミスしたり」
「そうなんだ。……でも教えるの嫌じゃないんですね」
少しだけ眉を下げて笑う雪菜に「全然」と返す。
「アイツと打つの好きだから。一生嫌になんてならないよ」
真っ直ぐ目を見て答えれば、雪菜は少しの間だけ俯いてから笑顔で「適わないですね、」と呟いた。
指導碁を終えた時刻は予定時間より少し遅れたが、日はギリギリ空に浮かんでいる。
駅まで車で送るという先生に遠慮はしたものの、最終的には送ってもらうことになった。
駅へ向かう車内で、ついて来た雪菜の質問に答えたり、先生と他愛ない話しをしていればすぐに目的地に着いた。
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