shortstory

□みっくすジュース
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「よっしゃ、ドリンクバー行くぞ。せっかくの無料券だ、たっぷり飲みたまえ!」

「ドリンクバーごときで大げさなんだよ、つかお前またパフェなんか頼んでさ―――……」

 ドリンクバーのコーナーへ向かう途中、前で話す2人の後ろで晶は巧海に小声で話しかけた。

「お前、いつもみたいにするなよ」

「いつもみたいって?」

 キョトンとして訊いてくる巧海に言葉を詰まらせた。

「だ、だからその……休日に出かけるときみたいなノリっつうか……」

 赤くなりながら、ポツポツと言葉を紡ぐ晶の言わんとすることがようやくわかりああ、と笑って晶の耳に囁く。

「2人きりのときと同じこと?」

 ぼふんっと真っ赤になって巧海から飛び退く。

「―――お前なぁ!」

「おいお前ら何やってんだよ、早くしろよ」

 文句を言ってやろうと口を開いたが滝に遮られた。

 何も無かったように笑ってドリンクバーコーナーに行く巧海を、無駄だとわかっても後ろから恨めしく睨みつけた。

「なあなあ、あれやろぜ」

「あれ? ……ああ、あれか」

「あれって?」

 滝が米沢に氷が入ったコップを揺すってみせると、すぐに察した米沢が頷く。

 意図がわからない巧海と晶は首を傾げた。

「お前らやったことねえ?」

 そういうなりコーラのボタンを押してコップに注ぐ。

 だがコップの6分の1あたりで注ぐのを止めてしまう。

 何がしたいのかとそれを見ていた2人は次の瞬間声をあげた。

「何混ぜてんだよ!?」

「うわぁ……」

「バカめ、これがドリンクバーの醍醐味だろうよ」

「醍醐味かぁ?」

そう言いつつも米沢も滝に倣うように―――数種類のドリンクを混ぜた。


「信じらんねえ! 邪道だ!」


「邪道も何もないって。チャレンジ精神だ」

「そんなのはチャレンジ精神とは言わねえよ! 小学校から勉強やり直せ!」

「……もはやもとが何なのかわからないよね」

 晶と巧海の前に置かれたコップの中に入っている異様な色をしたジュースには、さすがの巧海も身を引く。

 先ほどから飲め飲まないの攻防舌戦をする晶と滝を横目に、米沢はパフェを頬張る。

「米沢くん、これ何いれたの?」

「ん? ジュース類全部」

 と言うことは……と、巧海は脳内でドリンクバーにあったジュースを思い出す。

 まずはコーラから始まって、カルピス、メロンソーダ、オレンジ、グレープ……あとはなんだっけ。

 巧海はこんな色をした飲み物を初めて見た。
 最もこれを飲み物と認めれば、の話しだが。

 コップに入った水の色を例えるならば、コケの混じった泥水が透明になったもの……この例えの段階で飲み物ではなくなっている。

「ならお前が先に飲め! そしたら飲んでやる!!」

「ぐ……っ!」

「ほら見ろ、飲めねえだろうが」

「飲む! 飲んでやるよ! 尾久崎、お前も絶対飲めよ!!」

 ガシッと濡れたコップを掴み口を付け―――飲んだ。


「………………………う」


 ダンっと音をたてコップを置いて滝が俯く。

「おい滝? 吐くなら汚ねえから便所行けよ」

 パフェを食べながら冷たく言い放つ米沢に、巧海は苦笑しがら滝に水を渡そうとしたが、いきなり滝が顔をあげた。

「―――うまい!」

「…………………はあ?」

 馬鹿かコイツいや正真正銘の馬鹿だ、と晶の目が言っている。

「ちょ、マジだって! 飲め!」

「いっやっだ!」

「ああっずっりーぞ!? さっき飲むっつたじゃんか!」

「ぐっ……」

 さすがに言ったことを覆すのは晶の性格上憚れる。

 意を決してコップを受け取り口を付ける。と。

「………なんか、普通に飲める」

「ええ?」

 心配そうに隣で見ていた巧海もさすがに驚く。

 滝が飲ませようと嘘をつくならわかるが、晶がそんな事をするとは思えない。

 と言うことは。

 巧海も晶からコップを受け取りちびりと少量を口に含む。

「あー……、本当だ。不思議だねぇ」

 驚いてコップに入っている透明な泥水を見やる。

「なんだろ……、ラムネ?」

「ああ、そんな感じ」

「どーだ見たか! 俺様特製ミックスジュースを!!」

「何威張ってんだてめえは、自分だってビクビクしながら飲んでたじゃねえか」

「うるせえ! とにかくこれで邪道とは言わせねえ!!」

「いやいや滝よ」

 そこで黙ってパフェを食べていた米沢が、いつの間にか持ってきていたらしいコーヒーを飲みながら口を挟んだ。

「見た目のどすグロさの時点でジュースとしては邪道だろ」

「……う」

「じゃあせめてミックスはカタカナじゃなくて平仮名で言えば?」

「おい巧海、お前何の提案して……」

「良いなそれ! 採用!」

「アホくせー」


 ―――結局、

 4人が店を出たとき、テーブルにはみっくすジュースが手付かずで残されていた。



 やっぱあれは飲む気になんねえよなー。

 なら最初から作るな!!










FIN.




いや、ほんと不気味な色をしたラムネ味になるんですよ…。飲める味だったけどもう二度とやらぬ。
滝と米沢はお気に入りのオリキャラ。やんちゃ坊主と甘党の機械オタクの巧晶の悪友でーす。
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