shortstory

□天気
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 団地にの小さな公園を通りかかった時である。

「あーした天気になーあれッ」

 懐かしい言葉のリズムに巧海は足を止めた。

 つられて晶も足を止めて声の方へと顔を向けると、高い位置でポニーテールにした小学低学年くらいの女の子だ。

 綺麗な漆黒の髪が陽に反射してすこしだけ茶を帯びて大きく揺れる。

 上を見る視線の先には、高く上げられた小さな運動靴。

 よく晴れている青空へ跳ね上がった靴は惜しくも重力に負け地上へと真っ逆さまだ。

 鈍く落ちた音と砂が擦れる微かな音を立てて砂利の上に落ちた。

 上がった時は何とも力強いのに最後は呆気ないものである。

「……雨」

 小さく少女が呟くその声は落胆に満ちていた。

 明日は何か大切な日なのだろうか。

「もう一回ッ!」

 投げていない左足の靴をまた大きく空に向かって飛ばす。

 投げると同時に強く睨みつける顔はまるでお天道様を脅迫するかの勢いだ。

 そして、―――落ちる。

「晴れ!」

 喜びが滲む声と同時に満面の笑顔がちらりと見えた。

「行こっか」

「おう」

 少女の笑顔を見届けて巧海は晶の手を握って歩き出す。

 握った手を握り返してくれる。
 こんなことがいつまでたっても嬉しくて幸せだ。

 右隣を歩く晶は男装ではなく、れっきとした女の子の姿。

 花柄に淡いピンクのチュニックに七分丈のジーンズは前に巧海が見立てたものだ。

 踵の低いサンダルは、洒落た靴などを履き慣れていない(運動靴以外で履いたとしたらビーサンや下駄レベルだ)晶のことを考慮した結果である。

 巧海自身身長が特に高いわけではないので、変に踵の高いものを穿かれないのは情けないが有り難い。

 一応格好を付けたい気持ちは少なからず巧海にもある。

 まあ晶といられればそんなのは二の次だが。

「……なんか付いてるか? 顔」

 巧海の視線に気づいて目を合わせて訊いてくる晶ににこりと笑って、

「ううん、可愛いなぁって見てただけ」

「!! ……っのバカッ!」

 見事なリンゴになって繋いだ手のまま巧海の横腹めがけて拳を投げるが、巧海は笑いながらひらりと避ける。

 照れると手が出るのはいい加減覚えたので最近では避ける事に体がなれたようだ。

 赤い顔で下からねめつけてくる晶は心底悔しそうで、―――とてつもなく可愛い。

 だからつい怒らせたくなる、とは口が裂けても言えないが。
 ……いや口が裂けるくらいなら言うけど。

「さっきの、懐かしかったね」

「……まあな」

「晶くんはやった? "明日天気になれ"って」

 話題を替えようとさっき見た少女を引っ張り出す。

 ふて腐れながらも返事を返す晶がまた可愛くて見つめるが、あんまり見ていると今度は口をきいてもらえなくなりそうなので仕方なく目のやり場をかえる。

「やった。でもやってるうちに天気じゃなくてどこまで高く上げられるかの方に拘ってたな」

「はは、すごい高くまで上がったんだろうね」

「いや、伊織には勝てなかった」

 思い出したのか、むすっと悔しそうに口を尖らせる。

 負けず嫌いな彼女に巧海は吹き出しかけた。

 全くいつの頃の話しをしているのか、幼い少女と大人の男では力の差がありすぎて勝てないのも当たり前だ。

「僕もやったな。あれって結構当たるよね? 雨が出た時はすごい落ち込んだよ」

 そんな幼い巧海を想像して晶は小さく笑った。



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