shortstory

□成長
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「おい尾久崎、お前どうだった?」

「……変わんねえ」

 紙を片手に振りながら声をかけてきたクラスメートに、晶は苦い顔をして答えた。

「マジで! ホントお前の成長期はどこいっちまったんだよー」

「身長まんまだろ? まあいいじゃん、これで高かったらズルすぎ」

「うるせー、おめぇは縦より横に伸びてんだろ」

「ばっ、筋肉と言え!」

「いやー、米沢君のは筋肉にしてはぷよぷよじゃない?」

 割って入った声の方へ3人が振り向くと、巧海がこちらへ来て晶の横に並んだ。

「何だよ鴇羽ー、お前も尾久崎と同じ類だろうが」

「類?」

「身長座高体重視力etc…、健康診断における全てに変わりがない類」

「僕身長伸びたけど。体重も増えたし」

「マジで!?」

 いち早く反応したのは晶だ。

 男子2人も驚いたように巧海がもっている結果が書かれた紙を引ったくる。

「……マジだ。去年より伸びてる」

「3cmくらいか? 誤差じゃねぇな」

「おい体重は」

 紙に目を走らせている男子2人に割って入るようにして晶も紙に目を通す。

「―――マジで増えてやがる」

「ね?」

 顔をしかめた晶に巧海は小首をかしいで笑う。

「ずりぃ」

「僕は嬉しい」

「……」

 それは晶も嬉しい。

 病弱で平均よりずっと少ない体重だった巧海が正常に成長しているのだ。

 これは嬉しい。
 が、悔しい気持ちも確かにあるわけで。

「はっはっは、まあ尾久崎よ。女子の人気を一人占めした報いだと思って甘んじろ」

「そうそう。俺らにもうちょい気を使え、全部完璧だったら軽い殺意を覚える」

「お前らなぁ……」

「まあまあ晶くん」

 わなわなと拳を震わせ、今にもつかみかかりそうな晶を宥めるように巧海が声を添える。

 とはいえそれも晶には火に油だ。

「―――お前ら全員ぶっ飛ばす!」



***



「……おい、なんだこれは」

 晶は呆れたように目を細め、スープを運んできた巧海にテーブルを指差しながら問いかけた。

「うん、作りすぎちゃった」

 えへ、と笑う巧海に晶はため息をこぼした。

 テーブルに並べられた料理は明らかに作りすぎちゃった、のレベルではない。

 昼間の教室での一件で不機嫌だった自分の為だというのはすぐに察しがついた。

 どうも巧海は料理でお礼やら機嫌取りやらをする節がある。

 それでもそれを邪険にしてふて腐れるほど晶も子供ではない。

「これ食いきれんのか」

「うん、残ったら命さんに頼むから」

 なるほど、それなら心配はいらない。

 あの小さな体のどこに入るのか謎なほどに命は大食らいだ。

 命は巧海の料理を気に入っているようだから、呼べば舞衣とセットで来るだろう。

「そう言えば晶くん、健康診断どうやってしのいだの?」

 ああ、とコップにお茶を注ぎながら答える。

「人混み紛れて抜け出した。理事長が他の部屋で健康診断できるように手配してくれたから、そこで」

「そっか、どうしたのか気になってたんだ」

 秘密の忍者さんには人混みの中誰かに気づかれず抜け出すのは容易いだろう。

「まあそれが無理でも仮病使って他んとこで診断取りに行けば良かったし。楽で助かったけどな」

 サラダを持ってきた巧海がお手製のドレッシングをかけ、いただきます、と声を合わせて2人は大量の食事に手をつけた。

 大量の料理は当然2人で食べきれる訳もなく、半分が残って命の胃袋行きが決定だ。

「タッパーにでも入れるか?」

「うん、ラップができるのはするからタッパーとラップ持ってきて」

 わかった、と棚に手を伸ばす。

 ラップを巧海に渡し、晶は残った品々をタッパーに詰めていく。

 そこで巧海がいきなり晶の手を掴んだ。

「巧海?」

「ごめん、手ひらいてくれる?」

 は?と怪訝な顔になった晶に巧海はいいから、と促す。



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