shortstory

□罰掃除
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「なんかさー、あんま秋って感じしねえよなぁ」

 落ち葉の立てる乾いた音に耳がいい加減飽きて箒の柄に顎を乗せてぼやくと、端正な顔立ちをしたクラスメートに睨まれた。


「くだらねえこと言ってないで手え動かせ手。喋るにしても動かせ」

「尾久崎マジメすぎ。落ち葉掃除なんざ俺らの仕事じゃねえじゃんかー」

「お前が授業中にバカ騒ぎ起こしたから罰掃除させられてんだろうが! 俺らまで巻き込みやがって!」

 そう怒鳴る小柄な友人は元々つり目な目尻が普段にましてあがっている。

 別に大したことはしてない。

 理科教諭のカツラを授業中にプリントで折った紙飛行機で落としただけだ。

 いつも生徒を見下して内弁慶だった教師の焦った顔はなかなか見物だった。


「いいじゃんか! クラスの奴らだって何だかんだノってたのに俺だけ罰掃除なんて不公平だ!」

「元凶裁くのは当たり前じゃない?」

 穏やかな声でそう言った少年は顔は笑っているが変な圧力がある。

 怒鳴りちらす尾久崎よりも笑顔のこの少年の方が恐い、と滝は常々思う。

「げ、元凶ったってさぁ。いいじゃんかアイツすんげえムカつくんだもん」

「もっとバレないようにやればいいじゃない。わざわざ一緒に穴落ちることないのに」

「……サラリと言ったけどよ鴇羽。お前が言うとこえー」

「別に理科の先生に何かするつもりないよ」

 じゃあ理科の先生じゃないムカつく奴には?と訊くのは背筋を掠めた悪寒に阻まれた。


「はー…、何が悲しくて青春真っ只中の俺らが落ち葉掃除」

「だっかっら! てめえの悪ふざけのせいだっつってんだろ!? お前の頭の両横についてんのは飾りか? 飾りなのか? 飾りなら引きちぎって新しいの付けてやるぞ」


「怖い! 鴇羽も怖いけど実力行使の尾久崎も怖い!」

「晶くん、あんまり構うと滝君調子にのるよ。早く掃除終わらせよ」

「鴇羽ーッ! お前優しくみせて突き放すなよおぉ! しかもなんか怒ってねぇ!?」

 何を今更、と巧海は笑顔のまま箒で落ち葉を掃く。

「無実なのに罰掃除付き合わされて幸せ感じる人はいないと思うけど」

「……すみません」

「うん。まあいいけどね、でもこの落ち葉このまま捨てるの勿体無いね」


 いいけどね、と言う割にはどこか不機嫌だが、追求したところで返り討ちに遭うのがオチなので素知らぬふりだ。

「焼き芋とかしたいよなぁ」

「ぅわ!? どっから出てきた米沢!」

 にょきりと横から現れた米沢に滝は反射で飛び退いた。

「え。普通に校舎から」

「お前影薄すぎだろ、すんげえびびったー」

 はあ、と肩を撫で下ろす。

 尾久崎と鴇羽は気づいていたらしく全く動じていない。


「落ち葉で焼き芋な、やりてえけど学園内でやるわけにもいかねえし。てか今どこもそういうのできねえよな」

 落ち葉を集めながらぼやく尾久崎の口調は、淡々としているがつまらなそうにも見えた。

「してえなぁ、できないと思うと余計にやりたくなるのは人間の性だよなぁ」

「米沢ー、お前そんな食いもんのことばっか考えてると彼女できねえぞ」

「自分偽ってまで彼女なんざほしかないね」

「ケッ、格好つけやがって。つか鴇羽たちはそういうの興味ねえの?」

「そういうのって男女交際?」

 鴇羽が手を止め首を傾げる。

「イエス」

「あるよ」

「あんの!? 女からの告白ことごとく断ってるからてっきりそっち系かと……ぐはッ」

「あはは、勝手に妄想膨らませないでくれる?」

 鴇羽の持つ箒の柄で顎を突き上げられ悶絶。

「ひでえ! エンジェルスマイルに隠れたデビルが出たぞ、今!」

「滝君が失礼なこというからだよ、興味くらいあるよ。でも好きじゃない子とは却下」

「結局お前も格好つけじゃん……」

 クサいセリフに毒づいてそっぽを向くと、やれやれと呆れた声で言われた。


「滝君さあ、自分が三橋さんと揉めたからって僕らに突っかからないでよ」

「おおお、お前なぜそれを!!」

「否が応でも耳に入るよ、僕が女の子とお菓子の試作見せ合ってるの知ってるでしょ」

「……知ってる」

「うん、まあ頑張って」

「……何を頑張んだかがわかんねえんだよ」

「三橋は三橋で折れどころわかんねえって感じだったぜ? 変に意地張ってると益々溝できると思うけど」

 手を動かしながら言う尾久崎だが声は心なしか優しい。

「でもよぉ、先に折れたらなんかこう……」

「お前が一番格好つけじゃん」

「うぐ、」

 グサリと刺したのは米沢である。

 初等部からの付き合いだが、とことん容赦のない奴だ。


「カッコ悪いの誤魔化す奴とありのままの奴だと、疚しく隠さない奴のがマシらしいぞ」

「なあ尾久崎、それってどっちに転んでも俺がカッコ悪いってことじゃね……?」

「比喩だろ、まあ間違ってねえけど」

「ひでえ!」

「うっせえなぁ、結局マシな方とカッコ悪い意地張るのどっちが良いんだお前は」

 鋭く真っ直ぐな瞳に問われて息をのんだ。


 そりゃあ、―――マシな方が良いに決まってんじゃん。


「……明日、三橋と話す」

「うん、それが良いんじゃない」

「おら滝、落ち葉掃き終わったから捨ててこい」

「へーい」

 デカいゴミ袋を尾久崎に突き出され、気のない返事をしながらゴミ処理場に向かう。


「終わったらスーパーに焼き芋買いに行こうぜ、滝のおごりな」

「誰が奢るかアホ米!」


 すかさず叫んでからまた歩き出す。少し小走りで。

 ―――まあ、


「50円ずつくらいなら奢ってやるかな」


 かける3で150円。
 相談料には妥当だろう。

 ひとりごちに呟いて滝は落ち葉の詰まったゴミ袋を揺らした。










FIN.




青春ーってとこが書きたくて。滝と米沢は二人をふつうの学生にしてくれるので、書いててとても楽しいです(笑)
 

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