shortstory
□所有印
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白く厚い雲に包まれた空は今にも雪が降りそうな気配だ。
外は息を吐けば白い固まりが宙に浮かんで消える寒さである。
晶は起きてベッドから出ると思わず身震いした。
窓に息を吐けばガラスは白く曇った。
キュッと音を立て曇ったガラスを指でなぞる。
巧海、と書きかけ慌てて服の袖で消した。
本人に見られたらこれでもかと言うほどからかわれるに決まっている。
無心のなかでも巧海の名前が出てくる自分にも恥ずかしくなって顔が火照った。
取りあえず着替えようとカーテンを引くと巧海はもう起きたようで既にベッドは蛻の殻だ。
また調理室かとカーテンをしめてジャージを脱ぎ、下に着ている長袖を脱ごうと裾に手を掛け捲ろうとした―――瞬間部屋のドアが開いた。
「あ、晶くん起きた?」
「わ、バカ! まだ開けんな!」
慌てて上げていた服を下ろして叫ぶと「あ、ごめん」とへらっとした巧海の声が聞こえ、カーテンに伸ばされた手がさがった。
着替えてからカーテンを開けて見慣れたピンクのエプロンを付けた巧海を睨みつける。
「カーテン開けるときはノックっつってんだろバカ! 何回言えば覚えんだおめえは!」
「ご、ごめん。何かつい」
「ついで何回も同じことされてビクつく俺の身になれよ!」
「次、次気をつけるから」
ね、と困ったように笑う巧海に晶は何度したか分からないヘッドロックをかけた。
「―――で、朝っぱらからこれか」
「うん。初めてだったから手間取っちゃった」
やり終えて満足顔の巧海の横には綺麗に飾られたブッシュ・ド・ノエル。
ロールケーキの形も周りに塗られたクリームも見事としか言いようがなく、売り物にも劣らない出来だ。
ここまでくると呆れるよりも感心の方が強い。
たぶん巧海の作ったものだから見た目に劣らず味も良いのだろう。
「ホント店でも出来そうだな。こんなの作れる中学生男子なんてお前くらいじゃねえか」
「はは、それは持ち上げ過ぎだよ。今日どうする? 買い物行こうか?」
「んー。なんかどこも混んでそうだよな。寒いし部屋で良い」
「そうだね。買い物は明日の午前中にしよっか」
クリスマスイブ。
恋人たちの聖夜の日だ。
もともとはキリストの誕生日前日だが、そんな事は皆抜けて特別なイベントに胸を弾ませる。
プレゼント、ご馳走、いつもと違う特別な日。
晶と巧海は当然巧海がご馳走を作るので夜は寮の部屋だ。
イブと言えば恋人や家族でデパートやショッピングモールはごった返すのはもはや当たり前。
もう巧海へのクリスマスプレゼントは用意してあるし、今日中に買わねばならない物もない。
なら部屋でのんびり過ごす方が良い。
「今日雪降りそうだね」
「ホワイトクリスマスになるかもな」
巧海のベッドに転がりながら窓を眺め呟く。
むくりと巧海が起き上がって窓に向かって息を吐く。
「わ、真っ白」
楽しそうにキュッと指で文字を書き始めた巧海に晶も起き上がって隣へ並ぶ。
ガラスには互いの名前とその間にハートが書かれていた。
「何だよこのこっぱずかしいのは……」
「いいじゃない。僕らしか見ないんだからさ」
いやだから俺が恥ずかしいんだっての。
だがそんなことを言っても巧海が消さないのは分かっているので黙って布団に突っ伏した。
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