一護×雨竜

□君のそばで
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「寝不足か?」


そう問われて
迂闊にも裁縫をしていた手が止まってしまった。





君のそばで





穏やかな日曜の午後
今日は別に黒崎とは何も約束していなかったけど、急に僕の家におしかけて来て『くつろぎにきた』って

なんだそれは。


別に
いいんだけど。


そんなことより


「寝不足だろ?」

「…どうして」

「なんか裁縫する手がいつもより遅い気がする」

「それだけで?」

「目の下クマできてんぞ」

「……………」



裁縫する速度まで把握されているのか、僕は。

だけど 確かに。
寝不足なのは本当で。


「夜遅くまで裁縫してんだろ」

「違うよ」

「んじゃ、読書か?」

「それも違う」

「じゃあ…何してんだ?」



何かをしているわけじゃない。本当に理由がわからなくて。寝付けないんだ。


そう、僕が正直に言ったら
黒崎はとんでもないことを言い出した。



「羊数えてやろうか」

「………………は?」


ひつじ…?
って、あの、モコモコしてる…?


「よく言うだろ。眠れない時は羊数えるといいって」

「そうだけど…く、黒崎が数えるのか?」

「なんか文句あるか」

「…………いや」


その顔で?
顔は…………関係ないけど………いや、その顔で羊数えるのか?


「おら、いいからベッド入れ」

「今からか!?ちょ……っ押し込むな…!」

「はいはい。落ち着け。数えまーす」


黒崎はベッドで横になった僕の近くで 床に座り目線を僕に合わせた。


「羊が一匹 羊が二匹」

「……………」


せっかく数えてくれるなら、と 僕も目を閉じたけれど


「き……気合いが、入ってないか…?」

「あ?あ〜おう。気合い入れて数えっから、お前も気合い入れて眠れよ」


それってどうなんだ…

それでも僕は目を閉じて 黒崎の声を聴いていた。


……………ら、急に


「羊が 20匹」

「…っ!!!!!」

「どうした?」

「い、今…!なに…!!」

「なにが?」


なにが!?

今 耳元で それまでとは違う
囁いてきたのはそっちだろう


「おら、続きいくから寝ろって」

なんだそれは。
わざとじゃないのか?

続きを数えだした黒崎の声は 先程の囁きとは少し離れて それでも 最初の気合いのはいっていたそれとも違う


(結構柔らかい声…だな。寝るのが勿体ない…ずっと 聴いていたいな…)


なんて そんなことを思っていたら

「羊…が、53匹…」

「っ!」


またあの声で。だけど様子がおかしい。

「羊……が……ごじゅ……よん、ひき…」

「黒崎……?」

「ひつ…………………」


……寝た…?
自分で羊数えて それで…寝た?


「僕を寝かしつけるんじゃなかったのか」


可笑しくなって、僕はそっと ベッドから抜け出す。
押し入れから掛け布団を出して 黒崎にかける。

あ、眉間のしわが ない。

(よっぽど眠かったのか…昨日の夜も 虚が現れたしね…)


それなのに、僕が寝不足だからと 羊を数えるなんて 言い出して。


「ありがとう、黒崎」



穏やかな陽気。優しい呼吸音。


僕は黒崎の肩に寄り掛かり 静かに目を閉じた。










END
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