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□源佐久
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「…ぇ、あ」


目の前の光景がぐるぐると頭の中でまわる。佐久間が俺以外の男と身体を重ねている、違う…あれは佐久間じゃない

拒絶反応までがでる勢いだったがやはりあの声と動作は佐久間に違いない


刹那、震える手でドアをガララと開けてしまった。これはまずい

佐久間と男子はこちらを丸い目で見てきている、特に佐久間はな

こんな場面を見たら「なにしてんだ」と男子に掴みかかるところだが正直今の俺にそんな余裕はない。佐久間をしばらく見つめる


佐久間はやってしまったと顔からサーっと一気に血の気がなくなった青ざめた顔でこちらを見る。こんな状況を見られてか視線をキョロキョロと泳がせる

ドンッと男子の腹を蹴りあげる佐久間。帝国のエースストライカーにけられてはひとたまりもないだろう


そんな男子を尻目に佐久間が青ざめた顔でこちらに駆け寄ってきた。

「あ、あのね源田っこれは違うんだ」

「なにが…なにが違うんだ?」


俺の声が震える。自身でも分かるが相当なショックを受けている。あんな場面を見て違うと言われたって信じられる訳がない

胸がはち切れそうで、握り潰されてるようなこの痛み。嫉妬とはまた別の感情が込み上げる


涙が視界を歪ませ泣きそうになるがぐっとこらえそれを抑えた。



「…これは…その…」

「俺じゃ物足りなかったか?」

「ち、ちが」

「なにが違う」

「…ぁ、あっちがどうしてもって、いっいうから…」

幻滅した。男子は驚いた顔で佐久間の背中を見つめていた、俺は今までにないくらい佐久間を冷たい目で見ているだろう

先ほどの涙もおさまり今では佐久間を蔑んだ目でしか見れなくなっていた


「もう近づくな」

そう一言言い放ち、佐久間の制止の言葉を尻目にその場を去った







「源田、一緒にご飯食べよ?」

そんな事件があった後日、佐久間は無駄に話かけてくるようになった

教科書が机の中にはいってるの丸わかりなのに、わざわざ教科書貸してとか


今日遊ばない?

明日水族館に行こう

源田のためにキーホルダー買ってきたんだ、もちろんお揃い


そんな言葉をかけてきた、毎日のように

しかし、そこでうんいいですよなんて優しい言葉をかけられるほど俺は落ちぶれてはいなかった

毎日口から出るのはため息、もちろん激怒と皮肉でいっぱいのな


「あっちにいけ、お前とは今後一切話さない」


俺の冷たい言葉をはいた後の佐久間の傷ついた佐久間の顔を見て、一瞬胸が締め付けられる

しかし数秒たてば罪悪感なんて残っていない、もう俺は振り返らない


佐久間なんか大嫌いだ




《佐久間視点》

俺は馬鹿な事をした

自分が情けない、もちろん俺から犯した罪だ

わかっている、わかっているのに…辛い

自己中かもしれない
だが源田に一言謝りたい、ごめんって



クラスの男子とそういう関係になったのはつい最近だ
源田は奥手で硬派だからめったに俺とえっちなんかしない、正直欲求不満だった
最初は、ほんのお遊びだった

軽いノリで
「なぁえっちしない?」

そんな些細な一言だった
放課後で教室は二人きり

いくら男子でも佐久間の女にそっくりな身なりでは理性は押さえられないだろう
そして、性交した

気持ち良かった
久しぶりのえっちは、何回も何回もイって、天に昇る気分だった

でも、嬉しいとは思えなかった
それは相手が源田ではないから、だがお互いがその快感の波に飲まれ

いつしか毎日のように性交をするようになった
その場面を偶然、源田が見てしまったのだ


そして二人の関係に亀裂が走った


毎日のように、当たり前のように触れていた源田の手にも触れる事はもう出来ない

自分が悪いのに、辛いんだ

もう一回、もう一回でいいから…話を聞いてくれ

そんな心の叫びなんか聞こえるはずなんかない
源田の大きい温かい背中を、ただ見つめる事しか出来ないのだから


「源田っ」

「はぁ…なんだよ」

「お弁当…作ってきたんだ」

決して許されようとは思っていない
でも謝罪のかわりに、感謝の意味を込めて源田に差し出す
自己満足であっても、俺は諦めたりしない


「…いらない」

「で、でもっ一口でいいから食べてくれないかっ?」


弁当のまわりを被うバンダナの結び目をゆっくり解いていき、弁当のふたをとる


「…いらないって言ってるだろ」

「一口、一口でいいっだから…」

「いらないって言ってるだろッッ!!!」


そう怒鳴った源田の声の刹那、弁当箱ごと目の前から消えた

カランカランッと言う弁当箱が落ちる音に横を振り向けば、おかずやご飯が床に散らばっていた

源田を見れば、腕を振り上げていた
教室が沈黙に静まりかえる

ショックだった
いや、それを越えている

声が出ない、あの温厚な源田が…まさかこんな事をするなんて考えていなかった

「ぁ…あっ」

「……」

「ごっごめんね、いらなかったよね…ごめんね…っ」
「……っ」

「すぐ片付ける、から…っごめんなさい…余計だったっよね、…ッッ」


手足の震えが止まらなかった
涙をたえるのに必死だった、たえようとしても声が震えた

鼻の奥がツンとして、涙が視界を歪ます。きっと今の俺の表情は酷い顔をしている
無性に胸が締め付けられて、痛くて痛くて呼吸が止まるかと思った


散らばったおかずをかき集めて、急いで弁当箱に詰める

汚いとか汚れるとか、そんなの気にならない
ただ急いでかき集めないといけない気がした

中途半端に弁当箱にバンダナを巻いて、抱えて教室を出た


涙が溢れて止まらなくて、みんなが見てるのなんか気にせずに無我夢中で走った

でも、その行動を誰かに引きとめられた

後ろから腕がのびてきて、暖かいがっしりとした腕が俺を抱き締める

知っている
この感じは…

「源田…?」

「…ごめん」

やはり源田だった
後ろから源田の震える声が聞こえる

なんで?源田は悪くない
…なんで、なんで

「なんで…泣いてるの?」

「ごめん佐久間、弁当ごめんな、」

俺の肩にポツポツと、涙が落ちてくる、生暖かい涙の感触が腕に広がっている

「…俺、佐久間の弁当落とした時胸が張り裂けそうだった」

「……」

「やっぱり佐久間が好き、大好きなんだ、だから」

もう一回やり直してくれ


そう背中から聞こえてきた
こんな…こんな俺を許してくれるの?

「…いいの?俺で」

「佐久間じゃなきゃ嫌なんだ」

「他の男子とエッチしたんだよ?」

「もうしなければいい」

「最低なんだよ…っ?」

「俺も最低だから」

「…まだ、やり直せる?」

「もちろん」


俺は振り返り涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を源田の胸板に押し付けた

周りの視線なんか気にせず抱き締めあった

俺は源田の優しい匂いを思い切り胸に吸い込んだ




と真
(さよなら俺の初恋)(そしておかえり、俺の初恋)
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