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□鬼佐久←不
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「どうだ佐久間、自分の今された事の感想は」


俺はすっかり泣きつかれ床にコロッと人形のように転がっていた

「……」

「おい」


前髪を持ち上げられ涙でぐしゃぐしゃになった顔が上げられる

今は痛ささえ感じないただただ、頭が回らず鬼道さんだけを見ていた


「は、いい顔だな、これで俺の気持ちはわかっただろ?」


「…………ぅ……す…」

「なんだ?」

「もうっ、無理ですっ…」
「なにがだ、なにが無理なんだ?」

鬼道さんがゆっくり近付いてくるそれには恐怖心しかおぼえられなくて
目の前が歪んだ

「やっ…いやっ、いやだ!!」

「佐久間…?」

「ごめっ…なさい…ごめんなさいっ!!」

自分でもわからない手が頭にまわってぐしゃぐしゃと髪をかき回す

「お、おい佐久間…」

これには、さすがの鬼道さんもびっくりしたらしく、ゆっくりと手を伸ばしてきた


「ごめっ、なさい!俺が…バカでっ、マヌケだから…こんな事に…でもっ、もう無理だっ」

「…」

「いつもいつもっ、暴力をふられてっ、もう限界ですっ、も…鬼道さんについていけなっ…」


刹那、何かが俺の首を締め付けた
視線を落とすとら、大好きな鬼道さんのおっきな手だった

「ぁ………ぐっ…」

「さっきから、お前は何なんだ、自分の好き勝手言って…っ」

首を締め付ける鬼道さんの手に力が入る
喉が締め付けられまともに息ができない

必死に手を退かそうとするが、あまりに力が入りすぎてずっともがいているだけだった


「は、…ぁ…………ぐるっ…じぃ…」

「俺は、お前のそんな所が大嫌いだ!!」

「……………ぁ…」

頭が真っ白になる何回も脳裏で言葉が繰り返される

必死に逃げようとしていた手も動かなくなった、


意識が遠くなる心臓の動きがだんだんと鈍くなる


「ぼ、坊っちゃん、それ以上やると…」

「黙れ!!!俺は…」

残り少ない力を振り絞って、震える手で鬼道さんの頬をゆっくり撫でた


鬼道さんの目が大きく開かれる

どうしても最後に、
言いたかった言葉を告げたい


「……だ…ぃ…好きだ……ょ…………ゅ…ぅと…」


ゆっくりと体の力が抜けていく…目を閉じる前に見た最後の鬼道さんの顔は前に見た優しい鬼道さんの顔だった


目がゆっくり閉じて、視界が暗くなる…

意識も無くなり最後に前のように優しく笑ってくれた鬼道さんの顔を思い出す

愛してます
鬼道さん………



「…佐久間…?」

ゆっくりと、目の前にある佐久間の体をゆっくり揺する

「お、おい佐久間、」

優しく頬を叩いてみる
だが、佐久間からは返事がない

「おい、悪ふざけはよせ、起きろ佐久間!!!」

バチンッと
乾いた音が部屋に響く
叩かれた佐久間の頬は、赤くもならず青白く冷たくなっていた


「佐久間…佐久間……っ」
ゆっくりと叩いた頬を撫で、優しく抱き締める
ああこうやって抱き締めたのもいつ以来なのだろう

「佐久間…もう、殴らないから…ちゃんと好きって言うから…目を…目を開けてくれ…っ」

だが、青白く冷たくなり、変わり果てた佐久間からは返事はない


これからたくさんやりたい事もあったのに
言いたい事もたくさん
あったのに

また大好きですって
優しく笑ってほしかったのに…


もう、戻れない俺は俺の手で佐久間を殺してしまった

佐久間から毎日言われなくても分かるくらいの愛情をそそいでくれたのに

俺は、それを理解しようとしなかった


佐久間の体を見回してみると、至るところに痛々しく残る傷消えない痣、



こんなになっても愛してくれた佐久間を、何度も殴ってしまった

視界が歪み涙が溢れてくる、自分の弱さに、自分の憎さにただ佐久間の体に涙が落ちていくだけだった

ごめんな佐久間
本当は…こんなになった自分を受け入れてほしかった


…………愛してる



してると言えないまま
(失った光は)(もう二度と戻らない)
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