ブック

□鬼佐久←不
1ページ/2ページ










愛してると言えないまま






「佐久間、お前今日他の男と話しただろ」

薄暗い学校の片隅人通りが少なく見張りの先生ですらあまり立ち入らない場所だ
日差しは無く目の前にいる俺の恋人

鬼道 有人

目の前に見える2つの光それは俺をじっと…蔑んだ目で見下してきた

暗い片隅の中2つに光る真っ赤な鋭い瞳


背中を冷や汗が滴り落ちる感覚が分かる

身体中は震え、その目を反らしてしまう

怖い、怖い怖い
奥歯が噛み合わない
口の中が乾く


「す、すみませ…っ」

「俺の言うことが聞けないみたいだな」


―――バキッ

目の前に鬼道さんの脚がすごい速さで、俺の腹を目掛けて蹴りあげられた

溝にちょうど鬼道さんの爪先があたり
突然、腹からとてつもない痛みを感じる

でも、さすがに慣れてきた

何回も何回も繰り返しされたら慣れてしまうもの

背中がコンクリートの分厚く、固い壁に叩きつけられる

ゴンッ、と鈍い音がすると身体中に走る鋭い痛み、

お腹の底から喉をめがけて何かが押し上げてくると
ゴホッゴホッと喉が詰まるように咳が出てくる

酸素を取り入れようと
肺に無理矢理吸い込もうとすると、また咳が出てくる


―――苦しい
まともに、息が出来ない


「ゲホッ、ゲホッゲホッ!!……は、はぁっ…っい…」


前髪を乱暴に掴まれ、無理矢理上に向けられる


身体の体重が前髪にかかるので正直痛い

「今夜、俺の部屋にこい」

「…は、はぁ…」


ぐいっ、とさらに高く掴まれるギチギチと髪がしなる音がする


「返事はどうした?」

「…っはい」

「よし」

ぱっ、と手を離され、
顔が床に叩きつけられる

すると鬼道さんはなにもなかったかのように教室へ歩き出す


「………うっ……クッ…」


視界が涙で歪み床にポツポツと涙の跡ができる

誰にもバレないように静かに声を殺しながら抑えきれない涙を流し出す


「…佐久間?」


テノールのような聞き覚えがある低い声で、俺の名前を呼ぶ

左に顔を向けると顔に黄色いペイント目立つ髪型、
温かい目付き

「げん…だ…」


俺のことを凄く心配な目で見てる

眉毛を八の字に下げて、いかにも心配そうだという雰囲気が出ている

「また、やられたのか…?」

「…うん」


「…大丈夫か?」


そういって俺の頭を優しく撫でてくれる

優しく、柔らかい温もりが含まれたおっきな手でゆっくり撫でてくれる


「ん…大丈夫」

「お腹は?保健室行くか…?」

「いや、大丈夫だ…」

「でもっ」

「大丈夫だから、心配するな」


俺的には優しい笑顔を向けたつもりだが

無理矢理笑ってるということは源田にはバレバレらしい


「そうか…」

「ありがとうな、源田」

「いや、…友達として当たり前だろ?」

「ん…ありがとう…」

「礼はいい…そろそろ給食だな、あまり無理するなよ?」

「わかった」

「じゃあな」

「ああ、また部活でな」


源田は、なにかと俺のことを気にしてくれる優しい奴

俺が唯一頼れる親友だ


鬼道さんのことはだいぶ前から知っていてそれから源田は俺を心配みたいだ



廊下で別れ、教室に向かっていく


そんな二人の様子を廊下の隅からじっと見つめる赤く鋭い目に気付かないまま
教室へ戻った


―――――――――――


外が暗くなり、丸い満月が町を照らす

目的地に向かう足取りがとても重く感じる

今日はなにをされるのだろう

こういう時は無理矢理抱かれる、それか放置プレイか

ようするにはとても酷い事をされてしまう

そう考えただけで頭が痛くなる

大きな門の前で足が立ち止まる奥につづく長い道
大きな大豪邸自動で開く門を慣れた足取りでくぐり抜ける

辺りには真っ赤な薔薇、女神が彫ってある大きな噴水、鮮やかな花園


何回見てもすごいと思う

大きな玄関、ゆっくり扉を開ける中から黄色く眩しい光が目を刺激する

「いらっしゃいませ、佐久間様」

「こんばんは」

黒いスーツを身にまとった顔立ちのいい男の人

俺に向かって手を心臓の位置に持っていき、深々とお辞儀をする


「坊っちゃんはお部屋におります」

「わかった」

「上着の方をお預かりいたします」

「ありがとう」


上に羽織っていたコートを執事に渡す

赤い絨毯に沿って少し先にある鬼道さんの部屋へ向かう


一歩、また一歩…
近づくたび上がる心拍数


目の前にある一つの扉それがとても大きく、そして冷たく感じた


重い手付きでドアノブを
ゆっくり回すおそるおそる扉を開く…


「すみません、佐久間様」
いきなり二、三人の黒ずくめの見覚えのある執事達が佐久間の腕を掴み、身動きをとれなくしてくる

「なっ…!!は、はなせっ」
暴れてはみるもののやはり成人男性の力に勝てる訳がなく床に跪くような形になった

刹那、前から奇妙な音がするので前に視線を向けてみる


「ぁ、んっ、ふぁあっ、有人っ、」

「は、んっ……あきおっ」

途端に動きが止まった、
頭が真っ白にフリーズしたまま働かない

目の前には…
俺を抱いたベッドの上で、

鬼道さんと不動が…つながってるそんな光景が眼中に焼き付けられた


「は、あきぉ…ん……」

「やっ、は、ぁあっ、んぅっ…」


俺を抱き締めた優しい腕が、不動をリードするように抱き締める

――――――ズキッ

やだ―見たくない
胸が押し潰されるように締め付けられる

自分の愛している人が他の誰かを抱いている、それだけで頭がパンクしそうになる


「やっ…鬼道さっ……」


口がパクパクと
何かを言いたげに動くだが言葉にならず、ずっと見ているだけだった

「やめっ…いやっ、いやだぁあ!!」


視線を落とし、今見えている現実から目をそらせる


だが、執事が下げられた頭を、今見えている光景に無理矢理上げる

見たくないのに、
こんなにも胸が押し潰されるのに


「っ…ぁ…ぅああっ…」

目と鼻の奥がツンと痛くなる、途端に、何かが切れた
ように溢れ出す涙

ポロポロと俺の頬を伝っていく声まで上げるほど、
子供のように泣いたのはいつぶりだろうか


それを見ていた
執事達も、少し悲しそうな目で見ていた気がした
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ